■エアバックの開発をめぐって:「小説 本田技研」から

 

1 エアバックの開発

自動車のエアバックのリコールが昨年(2014年)起こりました。タカタのエアバックのどこに問題があったのか、まだ調査が必要なようです。私は技術的なことがわかりません。ただ、製品を設計するときに、何を価値として重視していたのか気になります。

製品の設計段階で、安全性を最優先するのは当然ですが、それに加えて要請されるのがコストカットです。コストを安くするために、何か問題が発生しなかったのか、そのあたりが気になるところです。今後に注目していきたいと思います。

日本初のエアバッグ搭載市販車は、1987年のホンダ「レジェンド」でした。エアバックの開発について、1992年から94年のホンダの広告をまとめた『小説 本田技研』第一話「安全への創造」に書かれています(Web版)。情報を補強してご紹介します。

 

2 二次安全という概念

1971年、安全対策の研究のために新設された「6研」に小林三郎は配属されました。担当はエアバッグシステムの開発です。地味なのに難しくて、「スタート以来10年は何も出てこなかった」とのこと。やっと1987年9月に市販車に搭載になりました。

6研では、安全を2つに分けて考えています。未然に事故を防ぐ安全が「一時安全」、ブレーキなどの研究がそれに当たります。衝突しても安全を達成するのが「二次安全」で、エアバックは二次安全に関連します。

二次安全の思想では、人間がミスをするものだということを前提にしています。人間をどういうモデルで捉えるか、これが非常に重要です。業務を考えるときに、ミスをしちゃいけないと言うよりも、人間はミスをするから対策が必要だと考えることが大切です。

 

3 当たり前のことを完璧に徹底的に

エアバックの開発目的は、万一衝突が起こっても、安全を確保するということです。故障確率をゼロにはできませんが、100万回に1回の故障率なら極限と言えます。この数値を達成するには、NASAの宇宙開発で実践する技法から学ぶしかないと考えました。

真髄を教えて欲しくてロサンゼルスに飛びました。しかし、宇宙のプロの答えは、当たり前のことばかりのようにみえました。①設計はシンプルに、②決定時は出席者と根拠を記録せよ、③目標への全員の思考の整合を確認しろ、こうしたことです。

二週間の滞在を終えて日本に帰る機内で、小林は気がつきます。当たり前のことを完璧に徹底的にやるのが信頼性技術の本質である、王道はないのだ、ということです。本質を徹底的に熟慮するのがホンダのしきたりだ、と後に小林は語っています。

 

4 よいコンセプトが必要

「よいコンセプトができたら、かならずよい商品や技術ができる」という考えから、必ずコンセプトを作ってから設計が始まるとのこと。エアバックのときも、たいへんだったようです。3代目の社長になった久米是志は、報告後、質問を浴びせかけました。

「高信頼性のキー要素は何か」…(1)故障の極小化、(2)故障時の最低性能の保持、(3)故障の予見性だと答えると、4つ目、5つ目を問われました。答えに詰まると、今度は、3つが同一次元なのか、完全独立事象か、と問われることになりました。

こうした質問に答えられたら一流だと小林は言います。コンセプトとは、「お客様の価値観に基づき、ユニークな視点で捉えた物事の本質」であり、いいコンセプトは1割の人にしか伝わらない、とのこと。1986年、エアバック量産に賛成したのは久米社長でした。

久米は、「エアバッグシステムを量産すると、高信頼性技術がホンダに残りますか」と質問しました。絶対残ると説明すると、「エアバッグの高信頼技術は、お客様の価値である品質の向上につながる。よし、やろう。」…これで量産が決まったということです。

 

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