■西堀栄三郎という存在:石橋を叩けば渡れない

1 創意工夫で難問解決

西堀栄三郎は学者であり実務家でした。品質管理の専門家であり、コンサルタントの草分けでもありました。第一次南極越冬隊長、日本山岳協会会長としても知られます。京大山岳部時代に、鹿沢温泉で仲間と「雪山賛歌」を作詞したエピソードもあります。

デミングが来日したとき、いつもそばについていたのが西堀でした。ジュランとも親しく、本人はデミングよりもジュランの考えに近いと語っています。ジュランはQCサークルのモチベーション効果について論文を書いています。

西堀の基本は、現場主義です。現場に出かけていって、たしかめてみる人です。南極越冬のための観測船宗谷の準備ができたと聞くと、すぐに船内に泊まりに行き、ベッドが固くて寝られないと指摘しています。

西堀の周りでは、おもしろいように成果が生まれていきます。どうしたらこんなことができるのか不思議になります。人工繊維の品質を向上させる方法を、たくさんの統計を較べることから見出し、製鉄の品質向上の方法を、製炉内の温度管理から見出しています。

西堀流の創意工夫をするためには、(1)こんなことはできる、創意工夫でやるんだと思うこと、(2) 絶対あきらめないで、何とかなる、何とかすると思うこと…が必要だと言います(以下、『石橋を叩けば渡れない』より)。

この際、根拠があろうがなかろうが出来ると思うことが大切で、自信でもうぬぼれでも、かまわないと言っています。切迫感が大切であると強調しています。窮すれば通ずなのだと繰り返し語ります。実際、創意工夫でしばしば難問解決を行っています。

どうやら、「窮すれば即ち変ず、変ずれば即ち通ず」ということのようです。どうにかしなくてはいけなくなったら、それまでの常識を変えるしかない。その結果、新しい道が開けてくる、ということのようです。

 

2 西堀流サイクル理念

西堀流は、多くの成果をあげています。<“西堀流”に統治いたします>…と宣言を出して、最初に言ったことは、自由が必要だということでした。<目的を実現するための手段というものは自由>だからです。

<人間の意欲を尊重することが創造性を発揮させるために一番大事>であり、<意欲を持たせようとするのなら、どうしても考える余地を与えておかなければいけない>。それには自由が必要なのです。

こうした点を前提にして、西堀流のマネジメントが行われます。<組織というものは、いろいろな物事、目的を達成するためにある>。<そのためには組織上の分担、会社でいうと職制によって、それぞれのやるべきことを明確にする>必要があります。

つまり、<何をするのが本質的なファンクションであるのか><その部門部門にいる一人一人は何をするのが本質的な問題であるのか><この目的をハッキリと一人一人にわからせるのが職制の義務です>…ということです。

その上で、<この目的を達成するための手段は、各自の自由である。このことが一番大切です>。考える余地を、<ある制限のもとに与える>のです。このとき、<考える自由の度合いが問題になってきます>。

この与える度合いは、段階的に多くすれば多くするほど結構で、そうすればそれだけ責任も重くなるし、意欲も高まり、能力もますます増えていきます。そして向上心も満足されていきます。ここに一つのサイクル理念があるわけです。

 

3 時代が西堀栄三郎に追いついてきた

チームワークとは、<共同の目的をみんなで寄って果たしましょうや、という考え方>であると規定します。<チームワークというのは、小集団でなければできない>という考えから、<五、六人くらいの小さいユニット>を積み重ねた組織を考えています。

<私は、最先端の人たちの小集団活動(チームワーク)を中心として、これがうまく運営されるように仕組むことを得意としています>…と語っています。西堀流の真価は小さな集団において発揮されます。

小集団ならば、<強い一体感のもとに共同の目的を達するため、各メンバーが相手の個性を尊重し、自分の能力をフルに発揮することができる>。他の人のやっていることに関心を持ち、それに気を配りながら、共同の目的を果たすことが必要なのです。

大事なことは、<成功の味をしめることによって生じるポジティブ・フィードバック・サイクル>を回すことです。創造性を開発するには、<成功の味をしめさせることが唯一のトレーニングの方法>であり、<当人をして調子に乗せることが非常に大切>です。

標準化を要求する代わりに、組織は、<何のために誰々は何を、いつまでに、などという「期待する結果」を明示し、その達成を強く要求した上でその達成のための手段、方法は、その担当者の自由であることをよく理解させます>。

やっと時代が西堀栄三郎に追いついてきた気がします。