■宮崎市定という天才:常識と合理性で読んだ論語

1 飛びぬけた人:宮崎市定

ときどきこの人は飛びぬけていて、並ぶものがないと思わせる人がいます。すぐに思いつくのが宮崎市定です。東洋史の学者です。この人の本で最初に読んだのが、『論語の新研究』でした。こんな人がいるのかと驚くばかりでした。

この論語の本にしろ、そのほかの東洋史の本にしろ、どこまで理解できたかわかりません。他の学者がどんなレベルなのかも、よくわかりません。しかし、専門分野でどうこうの人ではなくて、飛びぬけていると言うしかない存在だと思いました。

「論語の新しい読み方」(『論語の新しい読み方』所収)で宮崎市定は、自分の論語の読み方を語っています。<論語のできたとき、孔子の時代の本当の意味を探ることができないものか、と考え、そういう読み方を発見しようとするのです>…と。

それならば、どういう方法があるかと言いますと、これは比較研究よりほかないと思います。注釈に頼らないでも、論語ならば論語の本文をつき合わせて、比較することによってそこから解釈を見出すことができる筈だ、比較研究によって帰納的に結論を出してやろうという立場から私は改めて論語を読み直してみようと思うのであります。

基本となるスタンスは、<当時の社会状態のわかっていることが一種の方向を示すことになる。そういう社会状態を背景において論語を読み返そうというのが私の立場であります>。そのため、明らかにおかしいと思うものは、本文自体を疑うということをします。

 

2 比較の方法:明確性を尺度とする

『論語』の本文に間違いがあるというのですから、驚きました。さまざまなテキストを探し出して比較研究をするわけではないのです。そんな材料はないのです。しかし、合理的な方法がありました。

宮崎市定がとった方法は、論語の中の似た表現を並べて、比較してみるというものでした。論語には、同じか似た表現がしばしばみられるため、それらを集めて較べてみると、見えてくるものがあります。

論語には、似ている形式でありながら、しっくりくる明確な表現と、どうもへんだと思われる不明確な表現が出てきます。その場合、不明確な部分を、類似の明確な意味を持つ表現形式に改変してみるとどうなるか、検証しています。

例えば、「何をうれえずして、何をうれう」の形があって、これが明確な意味をもつならば、類似の不明確な部分を、この形式「何をうれえずして、何をうれう」に改変してみるのです。改変すると意味が明確になるなら、原文が間違っていると推定するのです。

意味が通らなかったら、意味が通るように文を直すということですから、濫用すると危険でしょう。しかし、論語の成立事情から、自然な素直な文章であったはずだという常識から考えると、それに反する部分に写し間違いの可能性が出てきます。

私は論語の中で孔子や弟子のいった言葉には、そんなにむずかしいわけのわからないことはなかった筈である、あまりわかりにくい所は、どこかに間違いがあるに違いないと予想していいのではないかと考えております。

 

3 合理性から突き詰める

宮崎市定は、<この文章の意味は、本当は私にもよくわからないのですが><どうもこれはおかしいです>…と平然と言います。当時の事情や状況をみて、常識を働かせるなら、違和感のあるものを無理に解釈するほうがおかしいことになります。

おかしいという感性がなくなったら、<孔子の考えも及ばぬ妙な解釈が>成り立ってしまいます。<わからないものを、わかったような気になって、悪い頭をなお悪くしてはたいへんだと、いつも警戒してきたつもりであります>…と言っています。

日本の言葉はまだ曖昧さが残って居り、特に漢文などを訳すときに、今までのいわゆる訓読に従って書いておけば、本人にも本当はわからないなりに、何とか格好だけはつくというものです。

合理性が必要なのです。<いったいヨーロッパの学者達の研究は非常に合理的でありまして、翻訳などをするにも、とことんまで考えるようであります>、そのため、漢文の解釈でも、<外国人の翻訳には文章の意味が明白だという特色があります>。

<近代のヨーロッパの言葉に訳すときには、もし二つの意味があるならば、どちらかにきめなければ文章にならない><ヨーロッパの言葉は表現が正確で><文法的にはっきりどちらかにきめなければならないという場合が多い>…という事情があります。

研究水準は、日本のほうが進んでいます。しかし、日本よりもヨーロッパの優れた点があると言っているのです。何とか格好だけつけてしまうのではなく、<とことんまで突き詰めて考えてみる>必要がありそうです。

宮崎市定の本を読むと、どんなにやっても、まだまだという思いをいだくことになります。『古代大和朝廷』のように、日本史を対象にしたものでも、常識と合理性を組み合わせてとことん突き詰めて考えています。おそるべき学者だったと思います。

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