■小室直樹はどうやって洞察したのか:新刊発売『ソビエト帝国の崩壊』

      

1 新刊が出た『ソビエト帝国の崩壊』

小室直樹の『ソビエト帝国の崩壊』が新刊の文庫本として出されました。当然、読まれるべき本です。そんなに厚くはありませんし、語りをまとめた本ですから、読みやすいと思います。脅威の対象が、ガタガタだと指摘した伝説の本です。1980年に出版されました。

小室の分析が出されてから、現実が後をついてきました。社会主義・共産主義は、資本主義・自由主義・民主主義へと移行することはないということです。一時的に発展しているように見えても、社会の構造が先進国型になることはないと指摘しました。

小室の洞察は、この本を読めばわかります。わかるように書かれていましたし、わかる人が当時からたくさんいて、ベストセラーになりました。現実が追いついてきて、小室が飛び抜けた人物であることを、もはや、あれこれ言う必要のない時代になったのです。

      

2 小室直樹の飛び抜けた洞察力

新しい文庫には、解説がついています。立派なものだと思います。だからこそ、小室を理解し、自分のものにし、自分で考えることが、いかに大変なことであるかを、あらためて感じました。解説者の橋爪大三郎はまじめな、たぶんすぐれた学者です。

橋爪は小室から何を学んだのでしょうか。ソ連が崩壊し、1996年には小室の『中国原論』が出ています。2015年出版の『鄧小平』は、橋爪がエズラ・ボーゲルにインタビューしてまとめたものでした。橋爪の中国に関連した発言は、異様な印象を与えているのです。

▼私だったら、こんな風に考えますねえ。
まず、台湾を、中国に返還させる。ま、統一する。実態は、いまのままで別にいいのです。形式が大事。そして、アメリカの了解が大事。これで、中華人民共和国の戦後は終わる。台湾が戻ってくれば、国民は当然、熱狂します。 p.235

香港の将来についても、[香港で自由選挙をどうぞやってください、でも中国の一部ですよ、っていう実例ができれば、台湾に対してものすごいプレッシャーになるはずなんですよ](p.237)と橋爪は語っていました。小室から学んだとはとうてい思えない話です。

中国寄りであったエズラ・ボーゲルであっても、まともに相手にできないほどの、空想的な発言に終始しています。解説者は自分で分析するときに、(当時は)状況を洞察できなかったのです。小室だけが飛び抜けています。あらためて考えるべき問題でしょう。

      

3 ヒラメキが必要

小室は他人の思考から独立した研究者でした。他の人が何を言おうが、自分が正しいと思
えたのでしょう。それだけの裏づけと自信が持てるほどに勉強したはずです。単に勉強しただけでなく、洞察を呼び込んできたとしか思えません。ヒラメキがあったはずです。

『評伝 小室直樹』下巻に『アラブの逆襲』執筆時の話があります(PP..462-463)。『コーラン』を読むばかりだった小室が、一か月ほどしたある日、「アラーの神が降りてきた」と言い、そこから[日産五〇枚で原稿用紙がどんどん埋まって]いったのでした。

書物や理論の理解など、論理で考えたはずですが、洞察に関しては、ある時、何かが一気にわかる現象があったようです。それを小室は書きながら深めていきました。ヤングの『アイデアのつくりかた』を発展させた、何らかの方法があったように思います。

     

This entry was posted in 方法. Bookmark the permalink.