■スマイルカーブと業務の品質 その3


1~3…はこちら
4~6…はこちら

7 愛着+高い報酬のコールセンター

電話対応の部門には、いろいろなスタイルがあります。以前、メーカーのコールセンターに、オタクといえるほど詳しい人たちが集まっていたことがありました。他と比べても時給が高いので有名でした。インセンティブもあって、人気の職場だったようです。

そのメーカーの製品の場合、コールセンターに聞けば、たいていのことが解決しましたので、ビジネスユースで圧倒的なシェアを持っていました。多少の入れ替わりがあるにしても、優秀なスタッフがそろっていて、コールセンターの評価も業界トップでした。

すでに何年もそこのスタッフを続けている人がいました。製品への愛着のある人たちがいて、社内でこれだけのコールセンターはつくれないという話を聞きたことがあります。製品への愛着と、自由競争と高い報酬が相まって、独特の成果を上げた事例です。

ところがあるときから、様子が変わりました。コールセンターの人件費が負担になったらしくて、1件15分にするようにという指示が会社から出されました。そうなると、十分なお客様対応ができなくなります。スキルの高い人たちはさぞ困ったことでしょう。

しばらくすると、いきなり国内のビジネスユースのシェアが落ちてきました。このシェア急落の原因について、どうしたわけか、当時あまり報道されなかったように思います。かなり多数の人たちが辞めていったという話を知人から聞きました。

その後、シェアの低下は止まらず、その後の復活はありません。かつてのコールセンターのことなど、ほとんどの方が忘れてしまったでしょう。いまから考えると安上がりのコールセンターでした。社員であの水準の人を集めることなど今後も不可能でしょう。

 

8 一番成功しているコールセンター

別形態のコールセンターの成功事例があります。いまも以前のままのスタイルで業務を行っています。業界でもめずらしい形態のコールセンターによって、この会社の場合、コールセンターによってブランド化が進んでいったというべきケースでしょう。

コールセンターのスタッフに、必要な資格を持たせたうえで、社員全体の成果を報酬に反映させる形態をとっていました。全体の成果が上がると、各人のボーナスが上がる仕組みです。そのためスタッフ間で、自然にチームワークができていくとのことでした。

何かあったら、皆で教え合うスタイルができあがっていて、全員のスキルがかなり高くなっているようです。ここでの電話対応の特徴は、お客さんと長く話をすることが評価されるということでした。これは社長さんの方針だということです。

なぜでしょうか。当然、合理的な理由があるのです。この会社ではコールセンターとWeb注文の併用になっていて、8割がWeb注文だということでした。2割の電話の内容は必ずしも自社商品についての直接の話ではなくて、いわば関連事項が多いということです。

これらにスタッフが一生懸命、対応しています。その結果、他に聞きにくいことが聞けますから、ここがいいということになって、リピーターになります。必要なときしか電話で相談が来ませんから、実際のところコールセンターは安上がりだということでした。

長電話で、あれやこれやお話をしていれば、当然お客様のニーズが探れます。その報告書が上がってきますから、それらをもとに商品開発がなされるようになっているのです。電話はマーケティングに不可欠な情報収集の手段になっているということでしょう。

 

9 付加価値の高い業務のブランド化

お客様の方から連絡が来て、そのお話に対応しながら、商品を開発していくために、ニーズに合ったものができてくるのでしょう。たんに話を聞くだけでなくて、その解決策もその場で答えていたとするならば、お客様にとっても有益で不可欠な存在になります。

リピートできる品物を扱っていたその会社は、相変わらず成長し続けています。コロナの前から成長していて、コロナの問題が出てからもあいかわらずのようです。やはり他社とは差が出てきました。差別化に成功したというべきでしょう。

星野リゾートの統合コールセンターにしても、マニアが集まって作ったコールセンターにしても、業務にそった仕組みが作れたときに成功しました。ただ、社員のチームワークで学習しながら進歩しているコールセンターが際立ってきています。

たぶんお客様との接触が長いために、正確なマーケティング情報まで入手できているからだろうと思います。実際のところ、偶然うまくいっているのかもしれないのです。したがって、まだ現状にどう対応したらいいのかわからずにいるのは仕方ないことでしょう。

しかし、そろそろ方向性を決める時期に来ているはずです。飲食はわかりませんが、高級品やリピートのある商品の中には大きな差が生まれています。お客様への対応の中で、マーケティングまで出来ているところは、たぶん今後とも強いだろうと思うのです。

お客様にリピーターになってもらえる部門や、アフターサービスに関わる部門は、スマイルカーブからいえば付加価値の高い業務にあたります。業務のブランド化ということを考えるべき領域であることは間違いないでしょう。注目して見ているところです。

 

 

カテゴリー: マネジメント パーマリンク