■現代日本語に係り結びがない理由:加藤重広『日本語学のしくみ』の説明

      

1 「は・も」も係助詞

お盆休みを利用して、講義テキストを作っていました。日本語文法を再構築しようという試みです。当然のことながら、簡単に行きません。この種のことは、シンプルにきれいにまとまらない限り、うまく行ってないということになります。幸い少しは進みました。

途中、当てもなしに読んだ本が何冊かあります。加藤重広『日本語学のしくみ』も、その一冊です。15の質問に対しての解説が書かれていて、それぞれが完結しています。いちばん興味深かった項目は「Q6 どうして現代語には係り結びがないのですか?」でした。

[高校までの古典文法では、「は・も」は終止形で受けるということはあまり強調しませんが、これも係り結びの一種とするのが一般的です](p.65)とあります。「ぞ・なむ・や・か」系、「こそ」系、「は・も」系の3系統の係助詞があるということです。

      

2 単なる強調から強調の弱まりへ

「ぞ・なむ・や・か」系の場合、係助詞のついた言葉と文末の連体形の呼応によって、係り結びが成立することになります。「こそ」系では、已然形の文末と呼応し、「は・も」系では、呼応する文末は終止形です。こうした三系統の係り結びが成立していました。

しかし[当初は微妙な意味の差があったようですが、平安時代になると平叙文では係り結びは単なる強調と理解されるようになっていました。強調を表す表現は、多用され長く使われていくうちに強調の働きが薄まる傾向があります](p.66)…とのこと。

細かい意味の差については、山口仲美『日本語の歴史』に記されています。そうした差よりも、強調という共通の機能が係り結びの特徴であるとの理解になっていったのでしょう。その強調の機能も、多用されれば、インパクトがだんだん弱まっていきます。

      

3 活用形の吸収合併で衰退

係り結びが広く使われるうちに、本来の切れ味が薄れてきて、機能を発揮しなくなっただけでなく、終止形と連体形などの活用形が変わっていくことになりました。平安時代から鎌倉時代、室町時代にかけて、活用形の数が減っていく流れが出てきたのです。

現代の日本語では、終止形と連体形が同形になっています。かつての終止形と連体形を見ると、現在の終止形・連体形と似ているのは、連体形の方です。すべてとは言えませんが、多くの場合、[古代日本語の終止形が連体形に吸収された](p.68)のでしょう。

こうなると、「ぞ・なむ・や・か」系+連体形の形が係り結びであるかどうか、はっきりしなくなります。もともと「は・も」系は終止形との呼応ですから、はっきりしません。結局、係り結びの形がはっきりわかるのは、「こそ」+已然形だけになりました。

それも[単純な強調に用いられるだけで、強調の働きも薄れるという状況が重なった]ため、[係り結びが衰退していく]ことになったのです(p.69)。各分野の専門家の説明と、やや異なるポイントから記述されています。そのあたりが興味を引くところです。