■小澤征爾の時代:「斎藤メソッド」とオペラの壁

    

1 小澤征爾と「斎藤メソッド」

小澤征爾氏が2024年2月6日に88歳で亡くなりました。最近の若者のなかには、この世界的な指揮者の名前を知らない人もいます。クラシック音楽の演奏家で、世界的に活躍する人がいても、もはやそうめずらしいことではありませんから、それでもよいでしょう。

以前、小澤征爾の話を書いたことがありました。『阿川佐和子の世界一受けたい授業』という文春ムックの本に登場した小澤は、斎藤秀雄のメソッドについて語っています。斎藤は「言葉に文法があるように、音楽にも文法がある」と考えました。

▼十人のピアニストがいれば、十通りのベートーベンのソナタを弾くけれど、その十通りの中に、聴いている人が納得する共通点が必ずある、それが文法だと言うんです。それを分析して証明したんですよ。 p.19 『阿川佐和子の世界一受けたい授業』

     

2 世界に通用した「斎藤メソッド」

共通点は[手の動きと速度ですね]と小沢は答えています。斎藤メソッドは、いわば「楷書」のようなきっちりした文法であり、これが世界に通用したということでした。[最初からカラヤン先生についてたら、こんなに指揮がわからなかった]と小澤は言います。

師事したのが、帝王ともよばれたカラヤン、そのライバルとも言われたバーンスタインですから、ただならぬことです。作曲家で指揮者でもある伊東乾が2月13日のJBpressで、<苦境をチームワークで乗り切った「世界のオザワ」>という追悼文を書いています。

「世界のオザワ」が学んだ「斎藤メソッド」の問題点を指摘した追悼文です。斎藤メソッドは、[焼け跡から日本を再建して文化国家として世界に冠たるキャリアを得る方法としては実に有効]でした。しかし限界もあったということです。

     

3 チームで成果を上げるシステム

伊東は斎藤メソッドを、[英文法学者斎藤秀三郎(1866‐1929)英文翻訳をモデルに]したものであり、[楽譜を詳細に分析し、それに合った「振付け」を決め指揮台で再現する、世界に類例を見ないユニークな方法]であると記しています。

[楽譜に対して唯一の正しい指揮法という、西欧に存在しない方法を創作し、日本国内に普及]させました。このメソッドを使って[小澤さんは20代半ばから「コンサート指揮者」としての成功に全身全霊を傾けて]いきます。しかしオペラには通用しません。

舞台上ではアクシデントがつねに起こっています。[決して音楽を止めず、ミスは最小限の被害で復旧させる]ことが必要です。これが斎藤メソッドではできません。[欧州のオペラ制作現場では全く通じなかった]のでした。どうしたらよいのでしょうか。

後年、小澤の指揮には舞台で歌手に指示を出す「歌手のための指揮者」がつきました。[チームでプロダクションを作り公演全体を成功させるシステム]を構築して、2002年から2010年までウィーン国立歌劇場の音楽監督を務めます。小澤征爾の時代でした。

      

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