■「エッセンシュル版」を作ることの意味:上田惇生のドラッカー理解の方法
1 図式化を嫌ったドラッカー
ドラッカーの『マネジメント』は大著です。上田惇生はエッセンシャル版の『マネジメント』を作りました。ドラッカーはいらないことをいっぱい書いている、だからエッセンスはこれだとまとめたものをドラッカーに送ったの…というお話を聞いたことがあります。
最初は「抄訳」という名称でした。「抄訳」では、各章の前に箇条書きのまとめがつけられていて、それが便利だと思いましたが、しかし「エッセンシュル版」では、それが消えています。聞いてみると、ドラッカーが嫌がると思ったので消したとのことでした。
ドラッカーの場合、物事を図式化してみることをあまり好まなかったとのことです。現実というのは、そんなに単純ではないし、図式化すると、それが独り歩きしかねないとの心配もあったらしく、箇条書きでのまとめは、嫌だろうなあと思ったというお話でした。
2 エッセンシュル版には賛成
ドラッカーは自分の書いたものを、簡単な図式化によって理解してもらいたくない、それは違うということです。しかし「エッセンシュル版」を作ることには賛成しました。上田の思ったとおり、ドラッカーも『マネジメント』が厚すぎたと思っていたそうです。
厚すぎたら読んでもらえません。ドラッカーも失敗したと思っていたようだと上田は言っていました。しかし、もはや書き直せないということだったようです。ドラッカーは、自分の作品を何度も読み返す人ではなかったとのこと。上田は大切な仕事をしました。
簡潔に図式化してしまうと、正確な理解が損なわれるリスクがあります。これはかなり一般化できることでしょう。厚い本が読めないからと、簡潔なノート形式の本を読んで、それでわかった気になっても、別物の本を読んだだけで、正確な理解は期待できません。
3 上田を飛躍させたエッセンシャル版づくり
ドラッカーの本を読んでいて、ちょっと心配になった時に、上田惇生に聞けば、たちどころにそれはこういう意味だと答えてくれました。ドラッカーがこの世にいなくても、上田惇生という人がいましたから、日本では安心感がありました。
上田は翻訳しながら、わからないところを直接ドラッカーに聞いていたのです。ときにはドラッカーの勘違いやミスも見つかりました。出版前にドラッカーが、上田に原稿を送ってきていた理由の一つでしょう。上田の場合、丹念に本文を読んで翻訳していました。
翻訳がドラッカー理解の基礎を作り、エッセンシュル版を作ったことが上田を飛躍させたように思います。『マネジメント』『イノベーションと企業家精神』に加え、『経営者の条件』も『プロフェッショナルの条件』の該当部分がエッセンシュル版になっています。
実力をつけるために、自分にとって大切な本のエッセンシュル版を作るのもいいように思います。全文を写す代わりに、本文に印をつけて重要部分をピックアップしていくという方法です。私もやってみました。二冊本を買うことになりますが、十分割に合います。