■ビジョンとはどんなものか、目標とはどんなものか:マネジメントの基本について

     

1 マネジメント用語の定義

マネジメントの用語をきちんと定義するのは、案外難しいことです。目標と言う用語は、普通の言葉として理解できるはずですが、マネジメントでいう目標は、少し違ったものになります。明確性がなくては目標ではないという条件が加わるのでしょう。

ではビジョンとの関係はどうなるでしょうか。ここでもビジョンという用語の概念が明確にならないと、何とも言えなくなります。ある種、混沌としていますが、成果をフィードバックする過程で、落ち着くべきところに落ち着いてくるはずです。

実際、成功した経営者の、さりげない用語の使い方で、概念の大枠が見える気がすることがあります。星野リゾートの星野佳路社長は、経営の教科書通りに経営をしてきたという人です。『星野リゾートの教科書』という本があります。2010年出版の本です。

この本は、10年以上前のものですが、まだ古くなっていません。ここに教科書の考えをどう実践したかが書かれていて、基本概念を理解するときに大切なヒントを与えてくれます。この本や、その他の機会に示される星野社長の考えは、その意味で貴重です。

     

2 ビジョンとはどんな概念か?

『ビジョナリー・カンパニー』を教科書に、星野リゾートでは何をどのように実践したのでしょうか。第Ⅳ部「教科書通りのリーダーシップ」に[社員の気持ちを1つにまとめる ビジョンを掲げて会社の目指す方向を示す]という章題があります。

星野リゾートでは、「リゾート運営の達人」という経営ビジョンを掲げました。星野社長が経営トップについて間もないころに経営ビジョンを作っています。どのようにビジョンのつくったのかも参考になるでしょう。幹部だけに相談して自分で決めています。

▼経営ビジョンの策定では社員の声を幅広く集めようとはしなかった。「会社の向う方向を決めるのは経営陣の専管事項」と考えたからだ。弟の星野究道専務ら幹部の意見を聞いただけで、自分が主導して経営ビジョンづくりを進めた。そして新入社員でも理解できる分かりやすい言葉で、目指すべき企業像を定めた。

ビジョンを決めるのは、経営陣です。まさに専権事項であり、その責任を負うべき人たちが経営陣、リーダーと言うことになります。この指とまれと言うことです。このビジョンが嫌なら、ここで仕事をするのは向いていないということになるでしょう。

    

3 ビジョンが目標に先だつ

リゾート施設で働く人が、「リゾート運営の達人」になるのが目指すべき方向だと示した場合、それが嫌な人がいるでしょうか。おそらくほぼ皆無でしょう。上手く作られたビジョンだと思います。しかし、これだけでは明確性の点で不十分です。

▼経営ビジョンの実現にどれだけ近づいているかを測る具体的な尺度も定めた。「顧客満足度(お客様アンケートの結果から数値化)」「売上高経常利益率」「エコロジカルポイント(環境基準に関する達成度を示すデータ)」の3つである。 『星野リゾートの教科書』

このように測定方法と測定基準を定めています。その上で[この3つの尺度の数値目標も定めた。例えば「経常利益率」の目標は20%である。達成するのは簡単でない]と定めるのです。測定方法・尺度を示し、目標値を示すのが目標管理の原則といえます。

ビジョンが「リゾート運営の達人」であり、それを定義し、成果を判断するときの基準となるのが目標だということです。目標とは、測定方法・尺度を示したうえで示される客観的な数値ということになります。ビジョンが目標に先だつ関係だということでしょう。