■主語という概念:一般用語としての使用法と文法概念 (その1)
1 一般的に使われている「主語」という言葉
日常会話の中に、主語という言葉が入り込むほどに、文法用語であった「主語」という用語は広く知られる言葉になっています。もはや主語という用語は文法用語としての概念とともに、一般的に使われる普通名詞にもなっていると言ってもよいでしょう。
「あの人の場合、無理はしないでしょう。今回も慎重にやりながら、たぶん最後は間に合わせると思うけれどもね。」という会話を聞いている人が、「あの人」が誰のことかわからないことがあるはずです。その場合、たいていしばらく話を聞いているでしょう。
そのうち「今度の展示は新しい画廊だから、間に合わないなんて言えないでしょう。大きな会場で勝負をかけているし…」といった新しい情報が示されるうちに、「あの人」が知り合いの画家であるこ都がわかって、先の会話の意味が解ってくることがあります。
ところが一向に「あの人」が誰であるのかわからない場合には、どこかでたまらずに、「誰のこと?」と言うことになるはずです。こういうとき「主語は誰?」と言うことも出来るでしょう。こういう言い方であれば、たいていの人に伝わるはずです。
2 一般用語化した文法概念に頼る学校文法
「主語は誰?」というのは、一般的な会話でのことですが、これ自体、文法的にも間違った言い方ではありません。主語という概念は、もはや日本人には定着していると言ってもよいのでしょう。問題は、主語の概念を明確に定義づけられるかどうかです。
いわゆる学校文法といわれる規範文法では、主語概念が明確に定義されているわけではありません。しかし一般用語化した文法概念に頼って、「私は誰です」「あれが何です」と言うときの、「は」や「が」のつく言葉が主語だという説明の仕方になります。
そんな風に教えていないと主張する人がいたら、理解する側に聞いてみればよいのです。ほぼすべての人が、「私は誰です」「あれが何です」の「は」や「が」のつく言葉が主語だと答えるはずです。こうした理解に反する主語概念はおかしいと言っていいでしょう。
3 「誰・何・どこ・いつ」の4つの類型
主語概念をどう把握しているのかを観察していくと、「主語は誰?」という言い方がかなり実態に合った言い方だとわかってくるはずです。私たちは、主語を把握するときに、「誰のことか、何のことか、どこのことか、いつのことか」を把握しようとします。
「誰(who)・何(what)・どこ(where)・いつ(when)」という4つの類型によって、私たちは主語にあたるものを把握しているのかもしれません。ただ、そうならば「主語は誰?」「主語は何?」「主語はどこ?」「主語はいつ?」という言い方が可能になるはずです。
しかし「誰?」「何?」は普通に言うことですが、「主語はどこ?」「主語はいつ?」とは言いません。「どこのこと?」「いつの話?」という言い方になります。一般の用語として使うときには、主語の範囲は「誰・何」が中心的なものとなっているようです。
(この項、つづきます。)