■憲法と業務マニュアル:憲法マニュアル説をめぐって

 

1 憲法=国家の業務マニュアル

業務マニュアル講座があったため、いくつかの文献を読み返したりしていました。この講義のあと、さらに少数向けにマニュアル全般の講座があるため(4月10日実施)、継続していくつかの文献を読んでいます。別の分野の本や資料のほうが刺激的です。

【年度替わりでHPが変更、日程まで変更になりました(⇒こちらです)。4月10日ですので、あわただしいお話ですが、個人対応ができるめずらしい講座ですので、ご興味のある方の参加をお待ちしています。】

あれこれ読んでみた文献の中で面白いと思ったものの一つに、憲法学者の小林節が伝えるアメリカの大学で提唱された憲法=国家の業務マニュアルという話がありました。アメリカらしい考え方だという気がします。いかにマニュアルが身近な存在かわかります。

▼アメリカへ留学し、国家共同生活の目的は私たち国民が幸福に暮らすことにあり、憲法は、その私たちがいわば道具としての国家を使い熟すためのマニュアルにすぎず、それは状況の変化に対応して使い勝手をよくするために適宜改訂していくべきものだと知らされ、目から鱗が落ちる思いがした。 『そろそろ憲法を変えてみようか』pp..1~2

憲法をもとに業務マニュアルを考えるのではなく、業務マニュアルをもとに憲法を考えている視点が面白いと思いました。マニュアルですから、状況変化に対応して使い勝手をよくするために改定をするというのが前提になっています。

 

2 少数の有力者が短期間に秘密裏に

ハーバード・ロー・スクールの授業でびっくりした話を小林は伝えています。[担当の先生が「憲法というのはどこの国でも、戦の直後とか、独立の際とか、そういう国家的混乱期に作られるものである」と言った]とのこと。20代の小林は大変感動したそうです。

▼「そういうものは公平に議論をしていたのでは議論百出となってまとまらないものである。しかし、まとまらないと困るものである。そこでジョージ・ワシントンが知恵を絞って何をしたかというと、少数の有力者が集まって短期間のうちに秘密裏に作ってしまった。つまり、有力者が作ったから、意見が違ってもなんとなく権威に負けて文句が出ない。短期間に作ったから、議論が噴き出す前に終わってしまう。秘密裏に作ったから、決定の過程で意見が散って喧嘩にならないで済む」と。 『そろそろ憲法を…』p.109

こうやって作ったままだと、問題があるかもしれません。したがって[憲法なんてものは時代状況に合わせてちょくちょくモデルチェンジして当たり前なんです]という考えに結びつくことになります。ここでもマニュアルとの関連を感じ取れるでしょう。

業務マニュアルを作成する場合でも、社長が自ら陣頭指揮を執って、こうすべきという場合、成功することが多いのです。ビジネスの場合、多数決原理は成立しませんから、少数の人間が一気呵成に方針を決めて、基本ルールを作ってしまうことがあります。

じつのところ、それでよいのです。大事なものであるからこそ、「少数の有力者が集まって短期間のうちに秘密裏に」ということになります。マニュアル講座で、権限者を明確にすべし、作成担当者の範囲を明確すべしと言うのは、そうした趣旨からです。

 

3 中核となる基本精神と骨筋

業務マニュアルというのは組織の憲法のようなものだということを以前書きました【業務マニュアルを作る価値:苦労して作る意味があるのか…?】。このとき触れていなかったことがありました。条文の数のことです。同じ教授の見解を小林は伝えています。

▼憲法とは、国家規範を通して間接的ではあるけれど国内生活のすべてを管轄する法典なのです。そういうものでありながら、あまたの法律と比べても一番条文の数が少ない。少ないということは、それぞれの条文が抽象的なものであって当たり前なんです。しかし、あまりに抽象的で使えないものであっては困ります。「そこで大事なのは、基本精神、骨筋だけははっきりさせておくことである。あとは出来るだけ言葉を少なくし、出来るだけ美しく希望的な言葉を使うことだ」というのです。 『そろそろ憲法を…』p.110

ここにも業務マニュアルと共通するところが大いにあります。業務マニュアルというのは、あまり厚くては機能しません。そのため「基本精神、骨筋だけははっきりさせておくこと」が大事なのです。それが事業の定義とビジネスモデルになります。

事業の定義については、【ドラッカー The Theory of the Business 「企業永続の理論」を読む】で触れています。業務自体が、規格の決まったものから自主性を持った専門家がなすものになっていますから、業務が変化しているというべきです。

業務の変化に伴って、業務マニュアルの概念も変わっていく必要があります。これが業務マニュアルの再定義ということです。憲法が国家の業務マニュアルであるというのに対して、業務マニュアルは組織の憲法であると言えると思います。

では憲法の下の法律や法令にあたる業務(作業手順やルール)について、周知して実践するには、どうしたらよいでしょうか。OJTを通じて行うことが効果的です。法律と同様、記述しておくべきでしょう。OJTのマニュアルを作ればよいということです。

 

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