■文章の練習法:基礎となる要約力の養成

1 聞き取りにも役立つ要約

早くも内定をもらって、会社に入ってから何をしたらよいのかを気にしている学生たちがいます。ためしに要約の問題を出してみました。残念ながら、全く駄目でした。自分の要約がお話にならないことさえわからないレベルです。要約などしたことないということでした。

丁寧に読んでいるなら、何がポイントで、どんなニュアンスであるのかわかるはずです。そのポイントがつかめていない以上、一定レベルを超えた要約などできるはずありません。1000文字近くある社説を100文字に適切にまとめることが出来たなら、相当高いレベルです。

たとえば聞き取りをする能力は、要約力が基礎になっています。大事なポイントは何であるのかをつかみ取れなくては、お話を聞いてもずれたことになります。人の話をしっかり聞くことが大事な部門の人たちが、文章の読み取り練習をするのは合理的なことです。

 

2 素材として優れている社説

要約というと個人差が大きくて、ぶれない解答が存在しないと思われがちです。完全一致と言うほどの解答はたしかにありません。しかし全体の構造を反映させたうえで、これがポイントでこれが展望だということになると、そんなにぶれた要約にはなりません。

言うまでもないことですが、一定のレベルを超えた文章でなくては要約する価値などありません。ビジネス人が要約をする場合、書かれている主張が何であるかをつかみ取ることが必要ですが、そのとき主張をするための記述の流れ、いわゆる構造がない文章では困ります。

その意味で社説というのは、要約をするとき最初の素材としてよいものです。分量も適当ですし、どの社説であっても、おそらく最低限の内容と文章形式を備えているはずですから、使える素材であるといえます。

社説の文章構造が標準的な形式になっていることも有利な点です。新聞記事の場合、いわゆる「逆ピラミッド構造」になっています。リードと呼ばれる冒頭の部分に重要事項の一筆書きが記されています。こうした構造が社説にも反映しています。

 

3 丁寧に読むのが書くための練習

社説の場合、たんなる改行ではなくて空白行を入れて文章のひとまとまりとなるブロックを形成しています。例えば日経新聞の場合、3行程度でひとつのブロックにして、それを10程度連ねていくのが、標準的な形式です。

一つのブロックが100文字程度で、それが10程度の集まりだとすると、構造もつかみやすいでしょう。全体が1000文字程度ですから、数分で読めます。社説の文章構造を見出すことが初めの作業です。たいてい3つのパートに分かれます。

このパート分けができたなら、文章の構造が見えてきます。それらのパートごとに小見出しをつけていきます。こうして各パートをまとめていけば、かなりの程度、文章の流れが見えてきます。慣れればすぐにこうした構造とポイントがつかめます。

社説を使って文章の要約練習をしてしておくと、その後、さっと読んでもどういう構造の文章なのかわかるようになってきます。このレベルになると、自然に文章を書くときのアウトラインが書けるようになります。アウトラインが書ければ、文章のレベルが上がってきます。

一定レベルのものを丁寧に読み、それを検証する作業が要約の訓練です。読みの訓練なしに、いきなり文章が書けるようになることはまれでしょう。読むことは書くことに先立つということです。小さなまとまりのある文章を丁寧に読むことが、文章を書くことの基礎になると思います。