■プロフェッショナルな仕事のための「読み書き算盤」:安藤忠雄『歩きながら考えよう』から

1 独学の建築家:安藤忠雄

安藤忠雄の設計した「住吉の長屋」は印象に残る建築でした。デザインの本や雑誌が身近にあったためか、まだ安藤が有名になっていなかった頃に、この建物の写真を見た記憶があります。シンプルで力強い建築でした。いまや日本を代表する世界的な建築家です。

平松剛『光の教会―安藤忠雄の現場』もよい本でした。代表作となったこの教会もとてもシンプルです。十字に切られた壁から差し込む光が、十字架のように見えます。大学に行かず専門教育も受けずに独学で建築家となった人の、圧倒的なエネルギーを感じます。

24歳の時、著名な建築家の建物を見ようと海外に出かけます。[ひたすら歩き、建築を考えた]そうです。[偉大な建築とそのつくり手の世界に触れることで、自分はどうするかと深く考える]ことになりました。安藤の言葉は『歩きながら考えよう』にあります。

 

2 世界的な建築家の勉強法

独学の人が建築家になって、そこから世界的になっていく過程で、どういう勉強をしたのでしょうか。安藤は[朝から晩まで建築のことばかりを考えていました]と語っています。それから建築専門のものに限らず広く[ひたすら本を読みました]と言います。

独創的なシェフの斉須政雄に絡めて丸谷才一が語っていたことを思い出します。[自分がふだん接している領域とガラリと違う分野の本を読むことが、頭を刺激するらしい]ということです。継続して考えること、さらに頭に刺激を与えることが必要なのでしょう。

[いろいろな情報はコンピュータで簡単に集められる、あるレベルまでは問題なくクリアできる、貼り合わせ作業ですから]。しかし[自分の創造をしっかりと仕事に織り込むことができなければ、プロフェッショナルな建築家としてはやっていけない]のです。

 

3 創造には…「思考」+「表現」+「判断力」

安藤は[コンピュータを役立てるには、自分の能力が要る]と主張します。能力とは[自分の創造]です。能力が必須の条件になる点、[どんな分野の仕事についても同じことが言えるでしょう]。そのためには[読み書き算盤ができないとだめだ]と言います。

「読み」というのは、読むことによって哲学を考えるということ。自分の生き方を考える。「書く」というのは、書くことによって自分の考え方を表現するということ。「算盤」というのは、単なる数勘定ではなく人生を計画する、ということです。

これらは、どんな分野の仕事にも参考になるはずです。安藤は、[本当の読み書き算盤とは、自分の思考と表現と判断力によって自分の世界を作っていくということです]と総括しています。創造には、「思考」+「表現」+「判断力」 が必要だということです。

こうした状態を維持発展していくのは、大変なことです。本人は[もし、私に才能があるとすれば、「みなぎる緊張感を、いつまでも持ち続けていられること」かもしれません]と語っています。[いつだって真剣勝負です]。これがポイントかなと思いました。