■文章を書くときの一番基本的なこと:丸谷才一『思考のレッスン』を参考に

 

1 頭の中でセンテンスをつくること

文章の上達のために、名文を読めというアドバイスがあります。おそらく丸谷才一の『文章読本』での主張が大きな影響を与えたのでしょう。実際のところ名文を読んでも、そう簡単に文章は上手になりません。不満を漏らす人もいます。もっともかもしれません。

名文を読めば文章の感覚が鋭くなる、その結果、自分の文章に対する感覚も鋭くなり、文章がうまくなるかもしれない…という感じでしょうか。成果をあげるまでに距離があります。名文を読むこと自体、必須のステップでしょうが、何だか物足りないでしょう。

『思考のレッスン』で丸谷は、<文章心得の一番基本的な点>を示しています。<ものを書くときには、頭の中でセンテンスの最初から最後のマルのところまでつくれ。つくり終わってから、それを一気に書け。それから次のセンテンスにかかれ>というものです。

 

2 頭の中に論理をつくる作業

センテンスの最初から最後のマルまで頭に浮かべてから書くようにという提言は、なかなか守れません。実際、丸谷自身<僕だって、ときどき守ってないときがあります>と語っています。普段、そんなに厳格に頭の中でセンテンスを作ってはいないものです。

しかし、この提言は重要なものだと思います。頭の訓練として、文末までを考えてから文を書くということは練習する価値のあることです。日本語の場合、文末の述語が文の意味を決定づけますから、文末を意識しているかと自らに問うてみるのはよいことです。

文の前半が文末と対応していない文を、まずい文の典型例とすることがしばしばあります。当然です。主語と述語の対応関係がうまくいっていない文は、論理性の面で不安定になります。頭の中できっちり考えないと、文の論理的な組み立ては難しいでしょう。

 

3 行き詰ったときの読み返し

文章を書いていきながら、行き詰ることがあります。書く内容がほとんど決まっていたはずなのに、どうしても先に進めなくなってしまうのです。そういうとき、どうするのがよいでしょうか。この点についても丸谷は、『思考のレッスン』のなかで答えています。

<いろんな手があるけれど、一番手っ取り早くて、役に立つのは、いままで書いた部分を初めから読み返すことなんですね><僕の体験では、これが一番早い>と言います。丸谷の場合、手書きですから紙の原稿を読み返すということです。大切なステップです。

なぜ、書いた部分を読み返すのがよいのでしょうか。丸谷は適切な説明をつけています。<自分の書いた文章を読み直すということは、一種の批評であって、その自己批評によってもう一人の自分との対話をする。そうやって書き続けていくことが大切なんです>。

重要なことは丸谷自身がときに実行していなかったり、思ったとおりに行かないことがある点です。こうすれば全てうまくいくといった機械的なものは、文章を書く方法としてしっくり来ません。頭の訓練ですから、原則・指針の形式がふさわしいのでしょう。