■新しい形式を作り出すときのモデル:楽譜・カルテなど

1 あるべき姿の記述:業務マニュアルと楽譜

業務マニュアルが楽譜に似ているというお話をしました。ここでいう業務マニュアルというのは、ドラッカーの言う「具体的な行動に翻訳できるような、明確で単純な共通の目標」を記述の中心とする文書です。標準化のための業務マニュアルとは違います。

『新しい現実』にあるこの「共通の目標」というのは、原文では「common objectives」になっています。目標管理が「Management by Objectives」なので、旧訳の「目的」より「目標」がよさそうです。目標を明確にして仕事を進めていくということになります。

ここでの目標というのは、あるべき姿や指針、そうするための基準が中心になりますから、楽譜もその一種といえます。楽譜だけでは実際に音は聞こえません。そこに息を吹き込む必要があります。楽譜は演奏者が解釈をする余地を大きく残こしています。

 

2 目標管理を行うための道具:カルテ

楽譜というのは、オーケストラや演奏家にとっての業務マニュアルというべき存在だろうと思います。旧来の業務マニュアルを再定義して、新たな業務マニュアルを作る必要がありますが、すでに楽譜という形式で先進的に実践していたとみることもできそうです。

同じように広く利用されている文書として、病院で使われるカルテがあります。カルテは英語でも「Medical record」ですから、診察や検査の記録を記述する機能を持った文書なのでしょう。業務マニュアルとは別の役割を持つ洗練された形式の文書だといえます。

カルテはまさに目標管理をする道具というべきものです。あるべき姿に比べて、どんな状態であるのかをシンプルに記述しています。古くからの記録でも時系列に記載されていますから、新しい記録を古い記録と比較することも容易にできます。便利な形式です。

 

3 演奏家の養成:OJT・教育用マニュアル

業務マニュアルを再定義する必要があると言っても、なかなかどんな存在であるかがわかりにくいと思います。そのとき楽譜のような存在だと言えば、一気にわかりやすくなります。カルテにしても、効率的な目標管理ツールのモデルであると言えそうです。

楽譜やカルテは、少なくとも私にとってかつては比喩として言及するような存在でした。ところが組織ごとに多様な形式の文書を見るうち、これらが説明のための素材でなく、学ぶべきモデルそのものだと感じるようになりました。考え抜かれた形式だと思います。

また業務マニュアルや目標管理ツールの他に、「具体的な行動に翻訳」するノウハウを継承するマニュアルがあったら便利だろうと思います。このとき演奏家や画家を養成するためのメソッドが、そのままOJTや教育用マニュアルのモデルになると思いました。

従来からあった形式が使えなくなってきたときに、まったく新しい形式を作り出すことも可能ですし、必要なことでもあると思います。ところがそれだけでなくて、別なところで使われていたものが、モデルになることがあるのだと最近身にしみているところです。

 

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