■複雑なことを説明するときの方法 2/2:文法の説明を例に

 

1 「こういうもの…」という説明

複雑なことを説明するのは難しいことです。前回その例として、日本語文法を取り上げました。日本語文法の場合、用語の概念をどう明確にするかという問題があります。ビジネスでも、業務の高度化が進むにつれ、説明の仕方がますます問題になってくるはずです。

この用語の意味はこういうものです…という形式で概念を説明する方法を採る場合、簡単なものなら何とかなるでしょう。しかし一定以上に複雑な概念の場合、これだけでは心もとなくなります。前回、事例としてあげた「必須成分」も説明に苦しむ概念です。

文を作るのに「絶対必要なパーツ」と言われると、わかった気になります。ところが例文を前にすると、困ることがあります。原沢伊都夫の『日本人のための日本語文法入門』にある10の文型の4番目にある「~が~と 動詞」という文型を考えてみましょう。

 

2 あいまいな「絶対必要」

原沢は、「~が~と 動詞」の文型の述語になる動詞として「結婚する、戦う、別れる」の例をあげています。<「結婚する」は、相手がいなければ結婚できません>、<「太郎が花子と結婚する」などと言います>と説明して、「花子」が必須成分だとしています。

しかし、こんな例があります。同級生がAさんと言うので、誰だろうと思ったら旧友のことでした。「1年前にBさんは結婚しました」とのことです。この場合、相手が問題ではなく、結婚した事実が問題です。「花子」は絶対必要なパーツと言えるのでしょうか。

「結婚する」と「結婚した」で文型は変わりません。ここでの問題は、「XとYは結婚する」ならXとYは同等の扱いですが、「XはYと結婚する」ならXがメインでYはサブになります。あえてサブにしたものを「絶対必要なパーツ」と呼ぶべきかが問題なのです。

 

3 「判別式・条件合致」の併用

用語の概念をこういうものです…と説明する場合、境界線が明確になりにくいのが問題です。文法に限らず業務の場合でも、ここは明確になっていないと困るという概念があります。必須成分とか構文という文法の基盤になるものの説明は、簡単ではありません。

このとき、「以下の式にあてはめた場合に該当するもの」とか、「(1)と(2)の条件に合致するもの」という示し方ができたら、ブレが少なくなります。全てのケースでこうした条件を提示するのは不可能かもしれませんが、この種の基準を作る努力が必要でしょう。

英文法の場合、主語と動詞という強力な組み合わせと、語順とそれに伴った品詞の概念とによって、使えるレベルの明確性が確立しています。日本語の場合、語順や品詞への意識が希薄なこともあり、文法用語の説明がうまく行かず、文法体系の整備が不十分です。

おそらく、シンプルな判別式と助詞を組み合わせて、類型を構文にできたならば、読み書きに使えるだろうと思います。その場合、具体的な判別が可能ですから、用語の命名も用語の概念の説明も後追いで問題ないはずです。業務についても、同じ方法が使えます。