■形式的基準で文章を判断する試み:『理科系のための英作文法』を参考に
1 形式的基準による判断
杉原厚吉は『理科系のための英作文法』で、<英文の不自然さを、体で感じる代わりに、形式的基準に基づいて論理的に判断する方法と、それを利用して出来るだけ自然な流れをもった文章を作る技術>を示そうとしたようです。しかし簡単ではありません。
I gave the book to a boy. …は自然で、 I gave a boy the book.…になると不自然なようです。まず古い情報を示し、新しい情報へと進むのを原則とするため、既出の対象をあらわす the のつく語を前に出さないといけないというルールが設定されています。
ところが、I gave a book to the boy.…は新しい情報が先に来て、そのあとに古い情報が来ていますが、<英米人にとっても自然な文>なのだそうです。かなりの例外があります。<この本とは別の、これまたおもしろい世界が広がっている>ということでしょう。
2 専門外のことを言い切る論理
杉原は数理工学の専門家で、<理論の中から役に立つ部分をすくい取ること、および、役に立つ理論を作ること>を仕事としています。そのため、<言語の専門家であったら、例外がいくつもちらついてとても断定的には言えないような事柄を>、言い切るとのこと。
その代わり<実用的価値でもって、その「仮説」の意義を認めてしまう>と言います。効果のある事項として杉原が挙げているのは、「文をつなぐ技術」です。<「仮定法過去完了」などよりずっと大切だと思う>と言います。
副題は「文章をなめらかにつなぐ四つの法則」です。杉原は文をつなぐ技術を説明するとき、日本語の文章も使っています。<文と文のつなぎ方を支配している規則が、日本語にも英語にも><通用する共通のものであると信じるから>…です。
3 詰めのあまさが見える規則
話の流れを、<[A].[B].[C].[D].[E].>…と単に並べただけでは、内容に立ち入らないと判らないため、構造を作るべきだと杉原は主張します。例えば、<[A].一方、[B].[C]とはいうものの、とにかく、[D].したがって、[E].> …がわかりやすいというのです。
コンピュータはあらかじめ決められたプログラムにしたがって機械的に計算をする。一方、そろばんは人が動かさなければならない。しかしよく考えてみると、その動かし方は機械的で誰がやっても同じである。コンピュータはそろばんよりはるかに計算が速いとはいうものの、実はコンピュータとそろばんは本質的に同じものである。
ビジネス文なら違った形式にすべきでしょう。この本の「仮説」はまだ詰めがあまいように思います。「AもBも…という点で同じである。違うのは…という点である」が標準的な形式です。内容をまとめないといけません。同じ点が原則、違う点が例外になります。
コンピュータはあらかじめ決められたプログラムにしたがって機械的に計算をする。ソロバンも人が動かさなければならないが、その動かし方は機械的で、誰がやっても同じである。コンピュータとソロバンの機能は、本質的に同じである。ただ、コンピュータはソロバンより、はるかに計算が速い点で大きな違いがある。