■助詞の機能:「目的」と「手段」

1 文中の目的と手段

何かをなす時に、目的を明確にしなくてはいけない…といわれます。プロジェクトの目的は何か、その目的を達成するための目標は何か、その目標を達成するための手段は何か、そういう発想があります。目的が中核的なもので、手段は付随する存在とみなされます。

文法の中にも、これに似た発想があります。「必須成分」と「状況成分」とに分類する考えです。若干わかりにくい概念ですので、一般には使われません。しかし、重要な概念です。必須成分とは、述語の意味を成立させるのに必須の成分と定義されます。

かえって状況成分を見ると必須成分がどんな概念なのか、分かりやすいかもしれません。『日本語教師養成シリーズ4』に佐治圭三が書いています。<状況成分の中には、時、行動の行われるところ、手段、方法、やり方、原因、理由などを示す成分が含まれる>。

 

2 必須成分と状況成分

必須ではない要素(状況成分)とは、「手段、方法、やり方、原因、理由」などです。目的地や目的物は必須成分になります。対象者や対象物も必須のものです。何かをする相手も必須の要素・成分です。日本語の文でも、これらを使い分けしています。

先日、「辞書は誰が作るもの?」という講演のお話のことを書きました。このとき、辞書に載せるときに例文が問題になったそうです。「串に団子を刺す」と「串で団子を刺す」との違いによって起こった問題でした。両者はどう違うのでしょうか。

単語を入れ替えるとすぐに分かります。「団子に串を刺す」なら問題ありません。しかし、「団子で串を刺す」ではおかしな文です。辞書の例文のお話ですから、「串で」が手段だというところで話は終わりましたが、文法的には重要ポイントに当たります。

 

3 文法の役割

「~に~を…する」と「~で~を…する」の違いは、助詞「に」と「で」の機能の違いです。先に出した「必須成分」と「状況成分」の違いにもなります。「~に~を…する」という形式の場合、「~に」「~を」がともに必須成分であることを表しています。

もう少し具体的に言うと、「私は串に団子を刺した」なら、「串に」も「団子を」も必須成分です。串を目的物、団子を対象物としていますから、両者が必要です。目的と対象に主従の関係はありません。このケースでは、団子を目的物、串を対象物にも出来ます。

「私は串で団子を刺した」なら、団子という目的物が主で、手段である串は従です。「団子を刺した」ことが主となって、「串で刺した」ことは従になります。2つの成分に主従がある場合、両者の入れ替えが出来ません。これは発想のパターンにもなっています。

私達が文を読むとき、助詞の使い分けによって、意識せずに両者のニュアンスを感じ取っています。ただ、違いがわからなくなることもありそうです。そのとき助詞の役割を意識することで違いが明確になります。そうした説明をする役割が文法にあると思います。

 

4 付記:対象と対象の関係

目的とか手段、対象といった言葉は、文法用語になっていません。そのため、やや概念が見えにくいと思います。以下、目的と対象についての若干の説明です。「コーヒーにミルクを入れた」という例文を考えてみましょう。

述部は「入れた」です。述部を基準に、その関係性を見ることになります。「入れた」のは、誰なのか・何なのでしょうか。主体が「入れた」人・モノ・ことが選択されます。これが対象者・物になります。ここでは「ミルク」でした。

一方、主体が「入れた」目的地・目的物は何か…といえば「コーヒー」です。「コーヒー」と「ミルク」に主従の関係はありません。ただ、コーヒーがたくさんある中に、少しのミルクを入れる…と考える場合、「コーヒー」と「ミルク」を逆にできません。

一方、「ミルクにコーヒーを入れた」という場合、たっぷりのミルクの中に、コーヒーを入れたという感じがします。ここで問題になっているのは、両者の分量の問題です。対象物と目的物という概念自体に、主従の関係はありません。

 

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