■業務の定義と分類 2/3:標準の記述について

1 業務も積み重ねで精緻化していく

モノには名前がついていて、その名前を表す概念が明確になっていないと、他のモノとの区別がきっちりできません。しかし、池田清彦の『分類の思想』にあったとおり、先に名前があって、他との区別はあとから厳格になっていくもののようです。

植物とは何か…という厳密な定義をする前に、動物との分類がなされていました。しかし、あいまいさがありました。徐々に両者を分ける基準が明確になっていったということでした。(定義と分類 1:池田清彦『分類という思想』から学ぶ

これは、業務がだんだん実際の経験を積み重ねることによって、精緻化していくのと類似しているように思います。標準化しようとするときに、きちんとルールを決めていく作業が必要となります。簡単ではありません。

 

2 現になされている業務でも記述は難しい

業務をきちんと記述しようとすると、概念の明確性が求められます。いいかげんに記述すると、本来の業務水準が伝えられないことになります。標準化するためには、実際の業務運用の過程を経る必要があります。

しかし、実際の業務の運用がなされていたとしても、簡単に記述できないことがあります。かつて松下電産がパン焼き器を作ったときに苦労したエピソードをお聞きになったことがあるかもしれません。

パン職人の技を生かして、おいしいパンを作りたいと思って、聞き取りをしたのに、どうもいま一歩でした。それで職人に弟子入りして、観察を続けていくうち、ある動作に気がつきます。「ひねり伸ばし」というこねる動作があったそうです。

職人に聞いたときには説明がなくて、観察を続けてやっと見つけたものでした。これを見つけて、名前も「ひねり伸ばし」だとわかったにもかかわらず、メンバーには伝わらなくて、同じように職人の動作を見て、実際の訓練をして習得したということです。

 

3 標準の記述が割に合うか

この場合、家電製品に標準化させるという目的がありましたから、聞き取り、観察、運用(訓練)というものを、ここまでていねいにすることができました。業務システムを作るときも、同じように徹底して聞き取る必要があるでしょう。

しかし、人間が行う業務の場合、ここまで徹底した聞き取り、観察、運用を経て記述することが割に合うのか、検討の余地がありそうです。重要な業務できちんと手順どおり行わなくてはならない業務なら、労力がかかっても正確な記述をする必要があります。

たとえば業務が変化し続けている場合、重要業務であっても、正確に固定的に記述することは無理でしょう。こういう場合、手順をすべて正確に記述しなくても、継承できるようにしておく必要があります。こういうとき、OJTは強みを発揮します。[つづく]