■基礎力を身につける勉強法:テキスト作成の方法

1 新しい分野の基礎を理解するために

全く知らない分野のテキストを作るのは、大変そうに見えますが、その分野が極端に専門的でない限り、そんなに難しくはありません。自分で基礎の勉強をすれば、何とかなってしまいます。ささやかな経験から、そのときの方法をご紹介します。

基礎的な勉強ですから、その道の専門家と対等にお話しすることは出来ません。ただ、質問くらいは出来るはずです。そのとき、そんなにひどくズレていない質問が出来るようになりたいものだ、と思っています。

まず、テキストを作る前の段階がどのくらいのレベルなのか、その辺が問題です。一番簡単な、おそらくこれしかない判断基準は、自分でわかったという感じを持てるかどうかだろうと思います。

自分でわかったという感じを持てたら、テキストに出来ます。わかったという感じを持つためには、ある程度、自分の得意な分野を持っている必要があります。得意分野を作った経験があると、新しい分野を理解できたかどうか判断するとき、大きな助けになります。

その意味では、何かしら自分の得意分野を持っている必要があります。長年おやりになってきたことを、もう一度、勉強してみるなり、ある程度時間をかけて勉強する必要があります。得意分野がない場合、時間はかかりますが、ここからスタートになります。

そんなに難しいわけではありません。ただ時間がかかることはたしかです。たとえば憲法の教科書くらいなら、大学の学部生でも読みますから、難しくはありません。しかし、普通の読書のように、どんどん読んでおしまいにはなりません。

知らない分野の基礎を迅速に身につけるには、まず、自分の得意分野で一定レベルを超えていること、という条件があります。

 

2 わかった部分から理解を広げる

新しい分野を理解するときに、まずなすべきことは、入門書や基本的な本を見つけることです。その中に、わかったと思う箇所が見つけられるかどうか、興味深いところが発見できるかどうか、がポイントになります。

わかったと思ったところ、興味深いところが核になって、理解が広がります。内田義彦が『社会認識の歩み』で書く、以下の一節は、経験からいっても、まさにそのとおりという感じがします。

社会科学の本でも、一般の本でも、まず断片を自分の目で読み取ることが必要です。最初に断片、それからだんだんにその本の全体を深く理解し、再解釈してゆくにも、ある断片がものをいって、それをテコにして再解釈が可能になる。

理解できたという感じを持てるようになることが必要です。最初は、ある程度、量が勝負です。わからないことばかりですから、手がかりが見つかりません。迷子の状態から、理解するところを見つけるまでに、大きな飛躍があります。

ちょっとした違いで、わかったりわからなかったりしますので、いろいろ探してみるしかありません。わかったあとで、何だ…ということはあります。しかし、最初の取っかかりが見つかるまでの時間は、なるべく早く乗り越えたいものです。

それには、たくさんいろいろな資料にあたるしかありません。

 

3 わかるところまでさかのぼる

もう一つ大切なことがあります。とにかく基礎をさかのぼるということです。もし小学生用の資料があったら、使う使わないに限らず、のぞいて見る価値はあります。使えそうな資料があったら、それは幸運です。小学生用の教材は、わかりやすいですから。

ある分野に関して、わからなかったら、一番基礎的な教材にあたってください、どこかでボタンのかけ違いをしているから、わからないのです…と。これは、大学生への講座でも、若手リーダー向けの講座でもお話したことです。

何も知らない分野なら、最初のボタンを探す必要があります。ここから理解しないといけないというスタートがわかると、理解は一気にすすみます。以上の方法は、特別めずらしい方法ではないと思います。

(1) わからなかったら、わかるところまでさかのぼって理解していくこと。
(2) 理解したところを足場にして、理解の範囲を広げていくこと。
(3) 足場をなるべく早く確立するために、可能な限り資料にあたること。

もう一つ有力な方法は、その分野をよくわかっている人から、説明してもらうことです。あるいは講義を聴くことです。業務マニュアルよりも、OJTのほうが向いている業務があるように、説明してもらうとわかりやすいということはあります。

幸運な人は、自分の感性にあった講座に出会えることもあります。上記の3点に合致したところがあったのかもしれません。もう一歩でわかる段階のときに、そこを上手に説明してくれたとか、探したら、ないと思ったテーマの講座があったなどというケースです。

特別なことはしていませんが、これを繰り返すと、新しい分野でも比較的早く理解できるようになります。テキストを何度か作成したささやかな経験からのお話です。ご参考になれば幸いです。