■使える文法の条件:町田健『まちがいだらけの日本語文法』を参考に

1 具体的に使えるという体験

先日、文章チェックの講座を行ったときに、どうしても最小限の文法事項について触れなくてはなりませんでした。文章をどう読むかというときに、文法は少しなら役に立ちます。逆に言うと、役に立つところはあんまりないのです。特に既存の文法は使えません。

多くの人が「文法は嫌いだ」と言います。役に立たないからということ以前に、新たなルールを理解したうえで、身につけるのは面倒だということでしょう。操作をしようとする人に向けて、操作マニュアルを作っても、なかなか読んでもらえないのと似ています。

文法書にしろマニュアルにしろ、読まれない原因は、必ずしも作成者の責任とばかりは言えません。しかし、作成する側が積極的に何らかの工夫をしない限り、読まれないのが普通だと知っておくべきでしょう。作成者側が読んでもらう工夫をする必要があります。

文法に関する本が読まれるようになるには、具体的に使えるということを体験してもらうのが不可欠だということです。なかなか難しいと思います。文法に関連した本でよくなされることは、現状の文法を否定することです。そこで止まってしまうと、困ります。

 

2 文節という概念が使えない

町田健『まちがいだらけの日本語文法』という本は、本の帯に「学校文法の誤りをただす!」とあります。2002年に出た本ですから、普通の本で言えば、古いといってもいいのかもしれません。しかし文法に関連した本ですから、すぐに古びては困ります。

第1章「単語が並んで文を作るしくみを考える」には、文節という概念も、自立語・付属語の概念も、明確な概念ではなくて、使えないという話が書かれています。[誰がやっても必ず同じものができあがるような形で定義されているのではありません]とのこと。

「そのかわいい女の子は小さなイヌと散歩していた」。この文を文節に区切れるでしょうか。「ネ」をつけてみると、「その・かわいい・女の子は・小さな・イヌと・散歩して・いた」となります。概念が不明確で使えないというほどではないでしょう。

問題は、なんで文節に区切る必要があるかということです。町田は文節が決められたとしても、文節によって[文を作っている単語の並び方のしくみ、文を作っている単語の並び方のしくみ、つまり文の構造をきちんとした形で言い表すことはできない]と記します。

 

3 用語でつまずく文法の本

日本語の文法で使われる概念の場合、否定することは比較的容易です。しかしそれに代わる何らかのルールを提示することは、相当困難なことになります。町田は、否定したあとに自説を提示しています。しかしそれが興味を引くことになるとは思えないのです。

たいてい用語のところでつまずきます。実際、町田も「この用語は私が作ったもので、他の文法学者は使っていませんが」(p.31)という言い方をしています。「名詞句+格助詞」という集合体を「名詞群」と呼ぶようです。ご本人以外使わない用語でしょう。

[この文では、主語は「そのかわいい女の子」、述語は「散歩していた」]だと記したあとで、[やっぱり「述語」とはせずに][「述語句」と呼ぶのが適当です]とあります。これだと最初からつまずくことになりかねません。なかなかむずかしいことです。

 

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