■目標への到達 :リーダーになってしまった人へ その14

1 方向を決める

マネジメントの中心的な概念となるのは、「目標と戦略」であろう。少なくとも、マネジメントの特色と言えるのは、「目的」と「手段」の間に置かれた「目標と戦略」である。目標を達成するためには、目標への道筋が見えていなくてはならない。

日本のラグビーチームを世界で戦えるようにしたエディー・ジョーンズの考え方を『ハードワーク』で確認してみると、意外なことに気づく。目的が大きすぎると物事が動かないのである。目的を絞り込んだものが、使命・ミッションの概念に該当する。

使命というのは、自分がやるべき方向のことである。当初、ジョーンズが考えた「日本のラグビー界全体を変えなければ」というのでは、方向になっていない。どう変えるのかを明確にするからこそ、方向が明らかになる。ジョーンズは「勝てばいい」と考えた。

日本のラグビーは[本当は力があるのに、それを出せないまま、弱い状態に甘んじている](p.32)。世界で勝てるラグビーチームを作ることがジョーンズの使命・ミッションと言うことである。これで方向は決まった。あとは目標に具体化する必要がある。

 

2 公共の利益と個人の美徳の調整

どっちの方に行きたいのかを決めるとき、リーダーが信念に基づいて、方向を指し示すことになる。そのとき主観が入り込む。ただし個人の信念だけでは決められない。自分達のことを大切に思ってくれる人が、どう見てくれるかを考える視点が決め手になる。

リーダーには、受け身の視点が必要になるのである。組織なら、社会に存立できる存在にならなくてはならない。人としてなら、大切な人に褒めてもらえる存在にならなくてはならない。「勝てばいい」と考えたのは、ファンから支持されるからである。

ドラッカーは『現代の経営』で、[公共の利益はつねに個人の美徳の上に実現されなければならない](選書下:p.316)と記している。これは逆も真である。「個人の美徳は常に公共の利益の上に実現されなければならない」ということになる。

 

3 距離=速度×時間

今後進むべき方向が決まったら、具体的なゴールを客観的に設定していくことが求められる。「ゴール=目標」を明確にすることによって、目標が達成できたかどうかが判断できるようになる。こうした目標の立て方をするなら、計画も立てられることだろう。

目標設定とは、方向に距離を示す作業のことである。距離とは、スピードと時間とによって決まってくる。どのくらいのスピードで進めば、どのくらいの期間で、どこまで行くかが見えてくる。「距離=速度×時間」である。目標とは、いわばベクトルに相当する。

ジョーンズは考えた。日本のラグビーチームを勝利の方向に進めていこう。具体的には、3年で世界のトップ10、ワールドカップでの勝利である。方向を決め、期間を決め、どこまで行けるかを決める。目標への道すじが見えているから、これができたのである。

 

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