■改善提案の仕組み作りとその先の話:その1

 

1 日本人の得意な分野

中井久夫が『清陰星雨』で[一般にドイツ人は網羅的な「ハントブーフ」を作るのがうまい]と言い、[これに対して米国人は作業を簡潔に文字化する「マニュアル」を作るのが上手である]と書いています。日本人は、両方とも得意ではありません。

ハンドブーフというのは、英語ならハンドブックと言いそうですが、薄い冊子でなくて体系的な詳しい説明書です。日本人の場合、あまりに体系的だと嘘っぽく感じる人が多いのではないでしょうか。私もその一人です。ヒルティもそのあたりを指摘しています。

マニュアルはご存じの通り、ルールを含めた簡潔な説明書です。これが苦手なのはあえて言うまでもないほどでしょう。冨山和彦が『稼ぐ力を取り戻せ!』で言う通り、[日本のメーカーは、標準化やマニュアル化が極端に苦手である]。メーカーだけでないです。

では日本人の得意なのはどんなことなのでしょうか。おそらく小さな思いつきの断片をたくさん出してもらうことなら、日本人は得意なはずです。関係する部門で、小さな改善提案を書いてもらったり、その種のことがしばしばなされていることはご存知でしょう。

アイデアが出にくい場合でも、皆に提案を書いてもらえるようなちょっとした工夫をするなら、たくさんの改善提案が出てくるはずです。こうした小さな思いつきの改善提案がこれだけ続々出てくる国はめずらしいというか、日本しかないだろうと思います。

日本の改善はすばらしいという評価は世界的に確立しているものです。不得意なことをやろうとするよりも、得意なことを伸ばして、それを再定義したほうがよい場合があるでしょう。ここ数年そんなことを考えながら、講座でもときどきお話ししています。

 

2 日本人の改善提案は世界トップクラス

提案をしてもらっている以上、その提案を集計して実際の業務のなかに取り入れることは、当然かもしれません。問題は提案から業務への反映に至るまでの仕組みが整備されているかどうか…ということです。仕組みがうまく回っていないところが多々あります。

しかし、本気ならば何度かやるうちに、提案が出てくる方法は思いつくでしょう。その後の提案をどういうプロセスで業務に反映させるかということも問題です。ただ誰かが責任をもって判定していくしかありません。これも仕組みにしておく必要があります。

改善をするためにアイデアを募り、それを集計して、業務に反映させていくという一連の流れは、マニュアルを作るための基礎訓練にもなりそうです。このときの努力は報われると思います。よい仕組みを作ったら、どれほど効果があるか実感できるでしょう。

これを意識的に行ったのが無印良品の「MUJIGRAM(ムジグラム)」です。無印良品に限らず、マクドナルドでもディズニーランドでも、日本の運用が素晴らしいと言われています。現場の人たちの改善の意識が基礎になっているからでしょう。

 

3 改善からイノベーションに向けたアプローチ

ドラッカーは言います。イノベーションの場合、成功確率は低いが、改善なら半分くらい成功するのではないかと。その一方でイノベーションと改善には明確な違いがあるわけではないとも書いています。両者はたしかに違いますが境界線はあいまいです。

実質的な両者の判定をする場合、イノベーションというのは改善に比べて圧倒的に成果の大きいことをいうと考えることも可能でしょう。少なくとも両者は水と油ではありません。成果に劣る面があるにしても、成功確率は改善のほうが圧倒的です。

いきなりイノベーションから行くアプローチもあるはずですが、小さなアイデアを集めた改善からスタートするアプローチも効果的です。これを意識的に行っているのがトヨタ自動車だという説明もあります。あえて改革といわず改善と言いたがるとのこと。

トヨタの方とは何度かお話ししましたが、大きな組織ですから具体的にどういうことがなされているのかはわかりません。しかし、小さな会社で意識的に改善から始めて、イノベーションにいたるプロセスを構想している例はあります。

資金の問題が大きいのだというお話をお聞きしました。いきなり大きなことをして失敗したら立ち直れませんからねということです。これは当然の経営判断でしょう。講義でも同じ話をしているとお伝えした上で、その先のアイデアをお話ししたことがあります。

(この項、続きます。)

 

 

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