■レシピと世阿弥『風姿花伝』:業務マニュアルの参考書

1 レシピを使って業務の説明

業務マニュアルの説明をするときに、ときどき料理のレシピを使いました。料理のレシピには正解がありません。業務にも正解がありません。何を成果とするか…が各人各組織ごとに違ってきます。どんな目的を持って業務をするかによって、成果が違ってきます。

早くてそれなりにおいしいものを作るのか、究極の味を求めているのかによって、レシピが変わるのは当然です。目的にそった料理の完成形が決まった場合、今度はそれをいくつのステップにわけて説明するか…という点が問題になります。決まりはありません。

同レベルと思われる何種類かのレシピを見れば、例えばハンバーグを作るのに何ステップになっているか、ある程度わかります。標準的なステップにそって実際に作ってみれば、ステップ数が適切かどうかの検討はできそうです。こんなふうにレシピは使えます。

 

2 再定義されたマニュアルの内容

業務を標準化する場合、レシピのようなまとめ方が必要になります。ここにノウハウを入れ込むことになりますから、その点でもレシピは使えます。しかしこれだけでは不十分です。業務マニュアルの再定義により、業務の目的や指針が大切になったためです。

業務の変化が激しくなっていますから、業務を標準化してそれを習得したらそれでおしまい…ということにはなりません。現場で仕事をする担当者が、自分で考える業務が多くなります。自分ルールでは困りますから、自分で考え自分で学ぶための指針が必要です。

そのあたりをレシピで説明するのは難しそうです。例えばこんな風に…と言える参考書が必要かもしれません。思い浮かぶのは世阿弥の芸術論、たとえば『風姿花伝』です。この本は能について後継者に書き残した芸術論といわれます。きわめて明確な内容です。

 

3 参考書となりうる風姿花伝

小西甚一は「世阿弥の人と芸術論」で、<『花伝』七篇にわたって述べられている前期の思想を、一応解きほぐして、現代風の箇条書きにまとめなおすと>…と書いています。『花伝』には、詳しく丁寧に読めば箇条書きできるだけの明確な内実があるのです。

小西は『花伝』の内容を5項目に分けて提示しています。高度な芸に達するための指針ともいうべき内容です。レシピのような業務作業をステップで示すものとは様子が違います。再定義された業務マニュアルの内容は、ビジョン、指針、基準などが中心です。

一、能は「花」(舞台における表現的効果)によって存立する。
ニ、花を得るためには、「能を知る」心の働きと、その種となる「わざ」とが必要である。
三、能を知るとは、次のような各項を体得することである。
[イ(a・b)/ロ(c・d・e)…内容省略]
四、「わざ」については、次のようなことが必要とされる。
[ハ(f・g・h)/ニ(i・j・k)…内容省略]
五、花は絶対失ってはならない。そのためには、
[ホ/ヘ/ト…内容省略]

以上は、高度な能を身につけるための指針と言ってよい内容です。業務マニュアルには、箇条書きができるくらいの明確な内容が求められます。業務の大原則を身につけ、高度な業務を体得するために、必要な事項を記したものが業務マニュアルだともいえそうです。

 

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