■基本的で使える方法「イコノロジー(図像解釈学)」のアプローチ:若桑みどり『絵画を読む』から

      

1 事実についての知識の役割

若桑みどりの『絵画を読む』の副題に「イコノロジー入門」とあります。イコノロジーとは、なじみのない用語ですが、使われている方法は別領域でも使える価値のある概念です。「まえがき」の「イコノロジー(図像解釈学)とはなにか」で、その概要がわかります。

[絵画(芸術)解釈の方法論やその実践課程](p.9)を知ることによって、[鑑賞者が絵画と対面した時に、自分で解釈する方法](p.10)を身につけられるようにしようとする学問です。観察の際に、科学の成果を知ることで、見方が変わるという経験に似ています。

▼事実についての知識は、感受性を深めこそすれ決してそれを抹殺しない。芸術は感性のみによって制作されているのではなく、人間の持つあらゆる能力や技術や経済的関係によって生み出されるものである。 p.11

     

2 欧米で美術史を重視する理由

若桑は、美術史の扱われ方について、欧米の[常識]を示します。[美術史は人類の歴史を知るための学の根本の柱の一つとなっている]ため、[高校や中学で「美術史」の正課を]おき、[通常の歴史]と切り離して[独立した一分野]としているのです(p.11)。

▼美術史はその他の歴史とちがって、イメージによる世界の解釈であり、イメージによる世界の記録であり、さらには、イメージによってのみ表現することのできた、思考や感情の表象(しるし)だからである。 p.11

それにはまず、[どのような時代に、どこで、いかなる文化状況のもとで、いかなる社会構造のもとで、誰によって、いかなる技術と経済的基盤によって生み出されたか](p.11)という事実の記録から出発し、さらに、それがどんな意味を持っていたかも調査します。

     

3 美術に限らず使えるアプローチ

若桑はパノフスキーの解説を援用します。帽子をとってあいさつする行為ならば、誰が誰に対して、どんな気持ちなのかがわかるのが第一段階です。帽子をとる行為がどんな意味であるのか、その約束事が共有されていることを確認するのが第二段階になります。

さらに帽子をとる紳士の[服装、行為、表情、雰囲気]から[ある時代、国民性、階級、職業、教育、知的伝統に属するのみならず、ある固有の人格を有することの「徴候」](p.15)を見出すことが第三段階です。社会的・文化的・知的環境の総合的な理解になります。

第一段階、第二段階は[現象的な意味]を見ることでした。第三段階は、[現象の基本にある総合的な、また本質的な原理、その原理に基づいて個々の現象が説明されうるようなもの]から[作品の持つ本質的な意味を探索する](p.15)段階です。

この第三段階の探索が[美術史の最後のしごと]であり、[パノフスキーによれば第三段階の内的意味の研究をイコノロジー(図像解釈学)]と呼ぶことになります(p.15)。美術に限りません。観察し、解釈するときの基本的な方法の一つとして使えるものです。