■デカルトの『方法序説』:典型的なモダンの方法
1 例外的に苦労なく読める哲学書
いわゆる哲学書と呼ばれる本は、簡単に読めるものではありません。しかし、デカルトの『方法序説』は例外的な本です。普通の学生が読めます。以前、哲学史の話をしたときに、学生が高校時代に『方法序説』を読んだことが良い経験だったと言っていました。
そのとき印象に残ったのは、第2部の「4つの規則」だったそうです。これもよくある話でしょう。では、その前提となる考えは、どんなものだったのかと聞くと、何でしたか…と詰まってしまいました。一番最初の部分に書かれています。以下の話です。
[良識はこの世で最も公平に配分されているものである][よく判断し、真なるものを偽なるものから分かつところの能力、これが本来良識または理性と名づけられるものだが、これはすべての人において生まれつき相等しいこと](『世界の名著22』p.163)。
2 理性が公平に分配されているという前提
良識や理性が公平に分配されているなどとは、とても信じられないことでしょう。しかしデカルトは、強引に公平に分配されているという前提を置いています。その前提に基づいて、意見の違いを説明するのです。以下のように、ずいぶん無理があります。
▼われわれの意見がまちまちであるのは、われわれのうちのある者が他の者よりもより多く理性をもつから起こるのではなく、ただわれわれが自分の考えをいろいろちがった途によって導き、また考えていることが同一のことでない、ということから起こるのであること。 pp..163-164
だからこそ、「4つの規則」が必要なのです。この前提を忘れている人が、思いのほか多くいます。無理な前提を無視しても、「4つの規則」は使えますから、忘れてしまうのでしょう。実際のところ、モダンの方法として典型的なのが、4つの規則といえます。
3 読む価値のあるお得な本
これらの規則から[たとえ一度でもそれからはずれまいという固い不動の決心をさえするならば、次に述べる四つの規則で十分である、と信じた](p.177)とデカルトは書いています。このたった4つの規則の提示が、学生にも我々にも、特別な印象を与えました。
第一は[明証的に真であると認めたうえでなくてはいかなるものをも真として受け入れないこと。言い換えれば、注意深く即断と偏見とを避けること]。第二は[出来る限り多くの、しかもその問題を最もよく解くために必要なだけの数の、小部分に分かつこと]。
第三は[もっとも単純で最も認識しやすいものから始めて、少しずつ、いわば階段を踏んで、もっとも複雑なものの認識にまでのぼってゆ]くこと。第四は、[完全な枚挙と、全体にわたる通覧とを、あらゆる場合に行うこと](以上、p.177)。
哲学書を一冊だけ選ぶなら、この本かもしれません。苦労なく読めますし、読む価値があります。この本を読んでおけば、西洋哲学史を読む場合にも、モダンの基礎にある理性万能主義はなぜダメなのか、それを考えながら読めるはずです。お得な本と言えます。
