■「顧客の創造」と「企業家精神」

1 ドラッカーの示したピカイチの概念

ドラッカーの「顧客の創造」という概念は、ただそれだけで、何かを感じさせます。顧客を作ることがビジネスの目的だと言われると、そう思えてきます。おそらくドラッカーの提示した概念の中でも、ピカイチのものでしょう。

ドラッカーは経済学の論文を書いています。早い時期のケインズを批判した論文もありますし、経済学の出発点をケインズではなくて、シュンペーターとなるべきだと書いた論文もありました。経済学の素人ではありませんから、経済学的な発想があったのです。

当然のごとく、「顧客の創造」は経済学的にも意味のある概念になっています。このことは、日本の戦後を代表するエコノミストである金森久雄が指摘していたことでした。金森が指摘するまでもなく、ドラッカーの『現代の経営』を見れば、発想が見えてきます。

▼企業の目的として有効な定義は一つしかない。すなわち、顧客の創造である。
市場は、神や自然や経済によって創造されるのではなく、企業によって創造される。
(中略)企業の行為が人の欲求を有効需要に変えたとき、初めて顧客が生まれ市場が生まれる。

 

2 目的を機能によって示す発想

顧客を創造するのが企業の行為であり、企業の目的は、顧客の創造だというとき、企業の役割を言い、企業の機能を言うことになります。経済学の場合、目的を示すときに客観的な指標で示すことが一般的です。目的を機能によって示す発想と結びつきます。

ドラッカーが1954年の『現代の経営』によって、マネジメントの基礎を築たという評価は、正当なものでしょう。しかし当時、経済学の方が主流で、マネジメントとか経営学は、まだこれからの学問体系でしたから、当然のように経済学の痕跡が残っています。

ここで取り上げたいのは、マネジメントを体系化するよりも前に、大切なコンセプトをドラッカーが提示していたという点です。ある優れた洞察がひらめいて、その後、提示されたときよりも、もっと大きな意義を持つようになったということだと思います。

ドラッカーが晩年、顧客の概念を変えたことは、思ったよりも大きな影響があったかもしれません。顧客が企業特有のものではなくなります。非営利活動においても顧客という概念を認めたとき、企業に限定された役割よりも、もっと大きな役割が生まれます。

 

3 「企業家精神」という概念

シュンペーターの「企業家精神」も、ドラッカーの「顧客の創造」と同じように、限定が外れることによって、大きな役割が生まれる概念だというべきでしょう。イノベーションは企業活動に限定されるものではありません。技術革新以外にも広く使われる概念です。

ここでいう「企業家」は企業活動をする人に限られませんから、当然のことながら、企業活動のみに限定される概念ではなくなります。ドラッカーが考える「顧客」の概念と同様に、もっと広い概念でした。さらに「精神」という語句にも問題があります。

シュンペーターの示した概念の日本語訳は「企業家精神」となっていますが、誤解を生じさせる訳語でした。精神を言うならアントレプレナー・スピリッツになります。「シップ」というのは「~らしさ」を表しますから、精神ではなくて、機能ということです。

経済学やマネジメントで使われる用語を、日常使われる感覚から引き離して、どんな概念であるかを、もう一度確認してみる必要があるでしょう。あるべき概念から見ていくと、新たな意味や理解が生まれてくるはずです。もう少し見ていきたいと思います。

 

 

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