■話すように書いてみると:ドラッカー「顧客の創造」という機能

1 主観を取り込んだマネジメント体系

ドラッカーが『現代の経営』で唯一の企業の目的としたのは、「顧客の創造」でした。いまから見ると、なんだか違和感があります。たぶん後期のドラッカーを知っているからでしょう。ドラッカーの場合、1980年代後半から考えが変わっています。

『非営利組織の経営』が1990年の本でした。ドラッカーはこの本の頃から、マネジメントにおける目的というものを使命・ミッションだという風に体系化しています。後期になって、マネジメントにおける目的概念が、だんだん明確化してきたという感じでしょう。

使命・ミッションという場合、これらはリーダーや経営層の、志や信念が入り込んだ概念です。どうしても、ここには主観が入ります。こうした主観の入る概念を使って、マネジメントの体系を作った点が、ドラッカー後期のマネジメントの特徴だと思うのです。

 

2 機能であり目的である概念

学問体系に主観を入れることは、あまり一般的なことではなさそうです。経済学とか社会学といった社会科学の分野では、主観を排除することが不可欠であるというのが原則でしょう。価値観を入れないからこそ、科学たりえているのだということになります。

たとえば社会学にはタルコット・パーソンズが主張した「構造-機能分析」という方法があります。機能とは普通にいうと働きとか役割のことだと思うのですが、橋爪大三郎の解説によると、この方法での「機能」というのは、「目的」のことだそうです。

英語にすると「function」ですから、中立的な客観性のある概念でしょう。どんな機能を果たすかということなら、働きがどうか、役割がどうか、目的がどうかということになります。その点で「顧客の創造」という概念は、機能であり目的であるといえます。

 

3 「顧客の創造」という概念の変化

ドラッカーは1954年以来、企業・営利組織の目的を「顧客の創造」と言ってきました。それが1990年代になって、「顧客」の概念を変えてきたのです。顧客とは、営利組織のものだという前提でしたが、これが非営利組織にも適応されるということになりました。

このように考えを変化させたこと自体は、妥当なものだったと思います。非営利組織と関わりのある人たちの中に、顧客に当たる人がいないと考えることのほうが不自然でしょう。営利組織でも非営利組織でも、顧客という存在が不可欠だということになります。

しかし「顧客」の概念が変わったなら、「顧客の創造」の概念も変わるのが当然でしょう。少なくとも非営利組織の目的にもなりますから、会社・営利企業の唯一の目的という言い方は妥当でなくなります。それでは顧客の創造とは、組織の目的なのでしょうか。

ここで問題になるのは、マネジメントの目的に主観的な要素が入る体系を、後期のドラッカーが作り上げている点と、さらにその後に「顧客」の概念を変えている点です。「顧客の創造」という機能は、どう扱われるべきなのか。ドラッカーは沈黙しているのです。

 

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