■歴史は繰り返すのか:ルールの発見とルールの創造

 

1 なぜ歴史は繰り返すのか?

「歴史は繰り返す」という言い方があります。「一度目は悲劇、二度目は喜劇」となって繰り返されるという言葉もありました。マルクスが『ルイ ボナパルトのブリュメール18日』の冒頭に置いていたはずです。その部分だけ読んだことがあります。

歴史は繰り返されるのでしょうか。小和田哲男は『歴史から何を学ぶべきか』で、私たちは前任者が行ったことを引き継いでいる、だから「歴史を繰り返す」のだと記しています。引き継いでいるうちに、歴史が繰り返されるように見える場面があるのでしょう。

こうした事情を小和田は自分の経験を使って説明しています。大学で学生就職委員長を務めることになったとき、[委員長の仕事については、何をやったらいいのか、どのくらいの仕事量なのか皆目見当がつかず、選ばれた当座は気が重かった]というのです。

[ところが、年度末のある日、「引き継ぎ書類」]を渡されました。それは[年度ごとの委員長の性格にもよるらしく、精粗まちまちではあったものの、その一年間の行動が一冊ずつきれいにまとめられたものが入っていた]とのこと。これで心配はなくなります。

小和田は言います。[歴史とは現代の「引き継ぎ書類」のようなものだといえるのではないか。「これも歴史から何を学ぶべきかの一つの回答になる」]。引き継いだ[「歴史をくりかえす」ことによって、「歴史はくりかえされる」]ことになるのです。

 

2 基本を押さえるのに必要な知識

私たちは過去の事例を参照して、それに沿った行動をすることがあります。前任者と全く同じように行動する必要はありませんし、それはバカげています。しかし引き継ぎ書類は役に立ちます。[基本線を押えることができる]と小和田が言う通りです。

では何が書かれていたならば、基本線を押えられるのでしょうか。特別なものは必要ないはずです。2系統のものがあれば十分でしょう。一つは、何をどんな時期、どのステップで行っているかを明示すること。もう一つはルールの内容を明示すること…です。

▼「何月何日、どこそこに誰を訪ね、どういう話をした」ということが、月日を追って詳細に書かれ、相手とアポイントを取るための書類の雛形なども綴りこまれており、それをめくっていくことによって、ほぼ仕事の概要を理解することができた

たいていの仕事は、こんな感じて引継ぎが行われることでしょう。「学生就職委員長」がなすべき職務の最低限の内容は、前任者が実際にこなした仕事の履歴で想像がつきます。業務を遂行するとき、合理的なルールがあるなら、それを引き継げばこと足ります。

 

3 ルールの発見とルールの創造

仕事を実践していく場合、環境変化もありますから、状況に合わせて適切な形式で適切な時期に、必要な業務をこなしていくことになります。こういうとき、何に基づいて適切か否かを判断するのでしょうか。言うまでもなく、仕事の目的に基づくことになります。

「学生就職委員」ならば、学生が適切な就職先に行けるように支援することが仕事の目的でしょう。その長ですから、何が一番成果を上げるかを判断しながら、業務をこなしていくことになります。多くの場面で、前任者の業務を繰り返すことになるでしょう。

「業」とは反復するという意味を含みますから、繰り返されることが原則になります。同時に状況変化が必ず起こりますから、それに合わせて、なすべきことが変わっていくのが原則です。業務というものは、繰り返しながら変化し続けていくものと言えます。

歴史を見ると、同じ構図が現れて繰り返されるように見えながら、状況の移り変わりによる変化が必ずどこかで起こっています。変化に適応できない者は精彩を欠き、成果が上がりません。繰り返されるところと変化すべきところのバランスが重要になります。

小和田は[歴史とは現代の「引き継ぎ書類」]だと言いました。歴史を考察すれば、行動の指針になるはずです。同時にそれだけでは不十分でしょう。歴史的経緯を考察してルールを発見するとともに、当事者がルールを作っていくことが求められるように思います。