■助詞「に」と「と」:機能の違いについて

 

1 「誰に~した」と「誰と~した」の意味

先日、助詞「に」と「へ」の違いを書きました。川村二郎『炎の作文塾』に大野晋の説が上手に説明してありましたので、それと対比する形で自説を書いたものでした。川村は「助詞は奥が深い」という同じ章で、「に」と「と」にも言及しています。

▼では、「先生とお会いした」と「先生にお会いした」では、どう違うか。
これも大野さんに教わったことの一つだが、厳密に言うと、「と」は、前もって約束をいただいてあったことを指す。従って、「大野先生と街で偶然お会いした」というのは、おかしいことになる。

ここで注意すべきことは、川村が語ったのは「と」についてだけだという点です。「と」の場合、相手との事前の約束があると判断されます。「に」の場合、相手との約束がなかったとまでは言えず、約束の有無は不明だということです。まとめておきましょう。

(1)「誰と ~した」ならば、事前の約束をしたうえで「~した」ということ。
(2)「誰に ~した」ならば、事前の約束の有無は不明。約束して「~した」場合と、偶然「~した」場合の両方に使えるということ。

 

2 「と」の3つの使い方

助詞「に」が接続すると、その語句は特定された対象・領域を指し示すことになります。「私は大野先生にお会いした」ならば、「私は」ネ、(誰かというと)「大野先生に」ネ、「お会いした」のです…という内容です。特定された対象は「大野先生」です。

助詞「に」の接続によって問題になるのは、特定された対象のことであり、どういう会い方をしたのかは問われません。約束があってもなくても、とにかく「お会いした」というだけの意味です。それ以上でもそれ以下でもありません。問題は誰であるかでした。

一方、助詞「と」の場合、特定された対象を示すわけではありません。「大野先生とお会いした」の場合、「誰」を問うのではなく、どのように会ったかの内容が問われているのです。「と」の場合、接続する語句の種類によって3種類の使い方が生じます。

(1)「AとB」を並列させる役割
(2) 述語となる「どうした」「どんなだ」の内容を説明する役割
(3) 条件となる「どんな場合」を示す役割

たとえば「私は大野先生と新宿でお会いした」という例文の「新宿で」は「どこ」という条件です。この場合、「大野先生」と「新宿」が並び立っているわけではありません。ここでは「大野先生と」が「お会いした」と結びついて内容を説明しています。

「大野先生とお会いした」の場合、「お会いした」内容を説明する(2)の事例ということです。(1)の使い方をするなら、「私」と「大野先生」を並列させて「私と大野先生は」となります。条件を示す(3)ならば、「私が大野先生とお会いすると」になります。

(2)で述語と結びつくのは「誰」だけではありません。たとえば「彼女は幸せですと言った」という例文なら、単に「言った」だけでなく、「幸せです」という内容を言ったことを示しています。文末の述語と結びついている「と」の使い方が、(2)にあたります。

 

3 約束ありと言える理由

こうした「と」の使い方を踏まえて、「誰と~した」の意味を確認してみましょう。「大野先生と会った」でも「彼と勉強した」でも「両親と旅行した」でも、(2)の意味です。「誰と」の部分が述語「会った」「勉強した」「旅行した」の内容を説明しています。

もっと具体的に言えば、ともになす行為、ともに作る状態を示すのが「誰と~した」です。「~した」の内容に「誰と」が含まれていることによって、誰かとともに行為をなすように、状態を作るようにしていたという意味が生じます。

「大野先生と会った」という場合、「大野先生と会った」という行為をなすように、そういう状態になるようにしたのです。そのため、事前に約束してお会いしたという意味になります。約束している「大野先生と街で偶然お会いした」のはおかしいのです。

お会いした事実だけを示す場合、「大野先生に」となりますから、「大野先生に街で偶然お会いした」という言い方なら問題ありません。ひとまず「誰と~した」ならば、事前の約束があり、「誰に~した」ならば、約束の有無は不明だと知っておけば足ります。

なぜ「誰に~した」と「誰と~した」で意味が違うのか、その説明がなされていないので記しておきました。接続する要素の違いによって、「と」の使われ方が3つに分かれます。中でも述語と結びつく「誰と~した」の使い方がポイントだということです。

 

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