■創造性が必要な仕事の仕方:宇野千代の小説の作り方をめぐって

 

1 独創的な仕事の方法

創造性が必要となる仕事の場合、どういう方法が効果的なのか、その参考に宇野千代の小説の作り方を前回書いたつもりでした。はっきりそう書かないほうがよいと思ったのが間違いだったようです。自分と関係ない話だと受け取ってしまう人もいたかもしれません。

独創的な学者だった小室直樹の勉強法について、以前書きました。基本となる本を繰り返し読む方法です。一方、民法学者の我妻栄のほうは徹底的に理解してきっちりしたノートを作りながら勉強していく方法でした。宇野千代の場合、繰り返し読む方法をとっています。三島由紀夫の場合、ノートを完璧に作る方法をとっていました。

創造する人は繰り返しテキストを読みながら正確な読みへと向かっていきます。同時に、ここはこの方がよいのではないかとテキストの読み替えをしていく傾向があります。これがハロルド・ブルームの言う強い読者であり、創造する人の勉強法の基本になります。

宇野千代の場合、気に入った小説を繰り返し読んで、それを真似して新たなものを創造する方法です。痕跡がなくなるまで自分のものにします。[フランスの小説の前衛なんか、よく読んでいて、自己流に消化してしまう]と瀬戸内寂聴が語っています(『わたしの宇野千代』p.205)。

私たちも、基本のテキストを選んで、熟読するところからスタートしたらよいのではないかと思います。私もそれを真似しようと心がけています。繰り返し読むことで、自分の目指すべきゴールのイメージができてきます。それがビジョンというべきものではないでしょうか。

 

2 全体のイメージを作って実践

宇野千代は、ドストエフスキーであっても[最初「雨が降っていた」という一行を書いて、だんだんと書いていくうちにああいう構想ができてきたんだと確信しています]と語っています。「確信」という言い方をあえてした感じです。少なくとも、自分はそうである、それ以外ありえないという態度の表明だろうと思います。

三島由紀夫が宇野の小説の大枠を指摘したのに対して、[自分でいうとタネ明かしになるようでいえなかったこと]と言っていますから、構想の全体的なイメージはできていたはずです。それを最初から構成しきってしまわないようにしています。

最初から全部を構成することはできないという考えが基本にあるのだろうと思います。あるいは、最初から全部を構成できるものは大したものではないのです。予定調和のように、最後まで計算した通りに進んでいくのでは、創造ではないでしょう。

つまり書くという実践の中で見えてくるものがあるという確信です。いわゆる偶然性、ひらめき、思いつきといったものまで計算に入れて仕事をしているということでしょう。西堀栄三郎も『石橋をたたけば渡れない』で、窮すれば通ずることがある。そこまで計算に入れて物事は実践しなくてはいけない。それをしないのは勇気がないと書いていました。

 

3 偶然の成功まで計算にいれる方法

創造的な仕事をする人の方法には、これは良いなあ…と思ったら、繰り返し繰り返しそれを味わうことが基本にあります。『論語』にあるように、「之を知る者は之を好む者に如かず 之を好む者は之を楽しむ者に如かず」ということでしょう。これが自然な影響の受け方のある種のモデルではないかと思います。

画家とお話をしていると、絵を描くとき、最初からこう描くと決めて、すべてその通りになってしまったら、それはつまらない絵でダメだという話に何度となく出会います。偶然にうまく行ってしまったというところがないと、本物ではないという価値観を持っているようです。

繰り返しあれこれしているうちに、たまたまピタッといってしまうことがあるのです。これをもう一度再現できたら、それが実力だと画家は言います。レベルが上がっていくにしたがってまた別の領域で、やはりある種の偶然からうまく行くことが求められるようです。画家はそれを当然のこととして、計算に入れて絵を描いています。創造への意識がある画家なら間違いなくそうです。

自分がお手本とするものを繰り返し味わい、そこから自然な影響を受け、自分なりに消化していく。自分の創造物を作るとき、事前にゴールまでの道筋をすべて決めようとするのではなくて、ある種のビジョンを持ちながら、偶然の成功までを計算に入れて実践していく。これは創造のための一つの方法だろうと思います。

カール・ヒルティは『幸福論』第一巻「時間のつくり方」の中で、[世界史における最も優れた文学的産物がみな、純粋に偶成の作品である]と書きました。[体系的網羅的なものはたいてい虚偽である]とも書いています。すぐれた作品を作る方法は、以上のような方法になると思うのです。

 

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