■操作マニュアルからみる製品のコンセプト

 

1 アメリカの法律にある言葉の指針

読みやすい文章をどう書いたらよいのか、アメリカでは様々なルールが設けられています。『新聞社も知りたい日本語の謎』の中に、ペンシルベニア州の消費者契約法の例が挙げられています。この法律には、言葉の指針が定められています。

・短い言葉、文章、段落を使うこと
・能動態で書く
・一般的に理解できる法律用語以外に、専門的な言葉を使わないこと
・ラテン語や外来語などの使用を避ける
・契約法に盛り込む言葉を定義する場合、その言葉に一般の人が使う意味とは違う内容を持たせて定義してはならない
・二重の意味に受け取れる文章は用いない
・二重否定表現は不可
・例外の例外を作ってはいけない

消費者向けの文章がわかりにくいと困るので指針を作ったのでしょう。こうした基準は日本語にはなさそうです。英文の基準ですが、参考になります。この法律を紹介する杉山晴信は[米国が移民国家で、英語力に格差があることも背景にある]と語っています。

杉山は[アメリカでは多くの州で平易文書使用法を制定していて、読みやすい書き方が明記してあります]と言います。アメリカの大企業では、機械の操作マニュアルを作るために、わかりやすい英文を相当研究していました。それも背景にあるかもしれません。

 

2 操作マニュアルがダメになる理由

『新聞社も知りたい日本語の謎』は、読売新聞新日本語取材班が2006年4月から2008年3月まで新聞連載したものをまとめた本です。4章5章が「マニュアル作り」に関するものです。上記のルールも4章に載っていました。5章は具体的な事例が語られています。

十年前の本ですから、内容が古くなるのは当然です。しかし、連載の最後で語られているのが海老沢泰久の『これならわかる パソコンが動く』であるのは象徴的なことです。1996年に出されたものです。いまから20年前のマニュアルが連載の締めになりました。

これを最後に持ってくるのは当然かもしれません。内容は古くなりましたが、本物のマニュアルと感じさせるものですから。私も講義で紹介しています。残念ながらその後、「これだ!」というものが出ていません。当然、これを超えなくてはならないでしょう。

この連載記事が貴重なのは、マニュアルの作り方をどうすべきかということが、反対方向の視点でわかるという点です。裏側からわかるというべきでしょうか。簡単に言うと、マニュアルが悪いのは商品コンセプトが悪いから…ということがわかるということです。

 

3 操作マニュアルの分量

携帯電話の取扱説明書が2007年当時、基本編とアプリケーション編を合わせると800ページを超えていたと紹介されています。こんなもの誰が読むのでしょうか。この分量にした段階で、もはや失敗しています。文章の問題もありそうですが、それ以前の問題です。

この連載でも分量に触れています。[分厚い説明書を読みやすくする工夫の一つが分冊化。使い手の関心が高い「手引き」の部分を独立させて小冊子にまとめる]とあります。NTTドコモの携帯電話「FOMA・F833I」の「かんたん操作ガイド」は80ページです。

本体説明文の7分の1の分量で、全130項目から[約30項目に絞り込んで]いるとのこと。この機種は別名「らくらくホン」と呼ばれる初心者向けの製品だったようです。しかし、この製品の「プロダクト企画担当部長」だった人は、この連載で語っています。

▼「らくらくホンのガイドは例外です。すべての利用者に満足してもらうには、新機能のどれ一つを取っても無駄はない。その説明には500ページを費やす結果になるのです」と力説する。

どうも発想自体が間違いだという気がします。操作方法が普及しない製品が広く使われることなどありえません。ごく少数の専門家向けの機械なら別です。一般向けの製品の開発がこんな発想で成功するはずないでしょう。講義でも、この点に言及してきました。

操作マニュアルが分厚くなって読めないような分量になる製品は、製品自体が洗練されていないのです。操作マニュアルをきっちり作ってそれを精査する組織なら、操作マニュアルを見て、製品開発を考えるはずです。2007年はiphoneが発売された年でした。

分厚い操作マニュアルをバカにするように、iphoneはマニュアルレスをコンセプトにしていました。もちろん操作案内は必要ですから、Webに情報が提供されていました。しかし500ページ分などありません。分厚いマニュアルになる製品はダメなのです。

 

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