■ドラッカーの論文を読む:「知識労働とサービス労働の生産性」を参考に(その1)

1 実態とずれたサービス労働の概念

ドラッカーの言うことだから、正しいと思っていたというつぶやきを何度か聞いたことがあります。これでは、かえってドラッカーが困るかもしれません。考えるときのヒントになるかどうかがポイントになるはずです。それがドラッカーの魅力だと思います。

生産性についてドラッカーは1991年に「The new productivity Challenge」を書いています。日本語の題は「新たな生産性革新の挑戦」または内容の実質から「知識労働とサービス労働の生産性」とつけられています。これなど過渡的な時期の論文かもしれません。

先進国にとって緊急を要する「社会的な」課題は、サービス労働の生産性向上である。(中略)先進国では、キャリアや昇進の機会は、高等教育を受け、知識労働の資格を持つ人たちに限られるようになる。しかし、彼らはつねに少数派にとどまる。低い技術のサービス労働しかできない人たちのほうが、つねに多い。(pp..108~109:【1991】 『P.F.ドラッカー経営論集』)

病院の医療機器を扱うこともサービス労働という前提で記述されています。その結果、おかしな話の展開になっています。あえてサービス労働と知識労働を分ける必要のないところがありますし、こうした点を修正しながら、読む必要があります。

 

2 サービス労働の概念を修正

サービス労働の概念について、その後、ドラッカーは定義しなおしています。サービス労働の領域を狭くしました。医療機器を扱うことは知識労働になったのです。2002年の「雇用の変貌」(『ネクスト・ソサエティ』所収)で、以下のように書いています。

サービス労働なる言葉が生まれたのが1920年前後だった。この言葉は当時から曖昧だった。今日、肉体労働者でない者のうち、本当のサービス労働者は半分もいない。先進国社会で最も急速に増加している労働力は、サービス労働者ではなく知識労働者である。(p.20:【2002】)

「知識労働とサービス労働の生産性」をいまから読む場合、サービス労働の概念を修正して読むべきでしょう。単に用語を入れ替えるだけでなくて、概念を修正した場合、問題提起自体が変わってきます。当然、問いも答えも違ったものにならざるを得ません。

[知識労働やサービス労働のそれぞれについて、何のために給与を払うか、その仕事はいかなる価値を生むべきかを検討しなければならない]とこの論文にあります。示された事例はデパートの店員の仕事についてでした。サービス労働とみなしているようです。

あるデパートでは、売り場の店員の仕事は売ることであるという答えを出した。ところが、同じように都市部にあって同じ客層を持つ別のデパートでは、客にサービスをすることであるという答えを出した。(p.117:【1991】『P.F.ドラッカー経営論集』)

この答えに基づいて、[売り場の仕事は別のものに変えられ][いずれのデパートも、店員一人当たり、および店舗面積当たりの収益が、急速に伸びた]そうです。現在、この答えに満足する人がいるとは思えません。仕事についての認識が違っているからです。

 

3 顧客志向から市場志向へ

1991年の「知識労働とサービス労働の生産性(The new productivity Challenge)」から3年後の1994年、「企業永続の理論(The Theory of the Business)」が発表されました。後期の代表的論文です。ここでもデパートが取り上げられています。

[顧客でない人たち(ノンカスタマー)の変化の大切さを教える最近の例として、アメリカのデパートがある]。[デパートは、顧客志向は大事であっても、それだけでは十分でないという教訓を与えてくれた]のでした。何が問題だったのでしょうか。

新しい世代の中で最も重要な消費者、すなわち教育を受けた共働きの女性にとって、どこで買い物をするかの決定要因は、価格ではなかった。時間だった。彼女たちにはデパートで買い物をする時間がなかった。(p.168 :【1994】『P.F.ドラッカー経営論集』)

こうしたノンカスタマーの動向を知る必要がありました。しかし[デパートは、顧客しか見ていなかった]のです。[このことに気づいたのは、ごく数年前に過ぎなかった]とあります。1991年の論文の事例は「顧客志向」の問題提起だったということです。

そこでの問題提起は「何のために給与を払うか、その仕事はいかなる価値を生むべきか」でした。しかしこれに先立って、自分たちの仕事が市場でどんな意義を持つのかを問う必要がありました。[組織はあくまでも市場志向でなければならない](1994)のです。

 

4 論文の読み方が問われる

以上からわかる通り、ドラッカーの考えは不動のものではなくて、重要ポイントであっても後日考えを変えています。実態と合わなくなったら修正するのは当然です。1991年論文の重要ポイントが実態に合わなくて、いまから読むとおかしな点もあります。

では、この論文はもはや読む価値のないものでしょうか。逆です。サービス労働の概念が広すぎた点に留意し、さらに「企業永続の理論(The Theory of the Business)」と共に読んでみると、この「知識労働とサービス労働の生産性」の重要性がわかるはずです。

生産性の向上は、いま日本の組織にとって一番重要な問題の一つに違いありません。そのときドラッカーがこの論文で示した「生産性向上のための六つのステップ」が大切になってきます。ここを基本に据えて、私たちは考えていく必要がありそうです。

シンプルに見える「企業永続の理論(The Theory of the Business)」でも、よほど気をつけないと、語られている重要な点を見落としてしまいます。アウトラインだけで結論を出しているところなど、情報を補強しないとわからないことがあるのです。

(この項、続きます。⇒「その2」

 

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