■ビジネス文の条件と目的:ノンフィクション作品との発想の違い

1 文学者と法律家の文章

ビジネス文書を書くときに、法律家の文章の書き方は参考になります。そのため、いままで何度かそのあたりを書いてきました。ところが大問題があります。法律家に文章の上手な人が少ないのです。法律家の文章は、ほとんど模範にならないでしょう。

法律の文章は、解釈の余地が入らないように用語の定義を厳格にして、言い方もある種の形式をもっています。この形式には伝統的な文体の影響があるのかもしれません。使われる概念が難しいだけでなく、文章自体が私たちの感覚と違うところがあるようです。

法学入門の本でも触れられることがありますが、文学者と法律家は発想が違って相容れないところがあります。文章は文学者のほうが専門ですから、興味が惹かれる文章が多く、読みやすいことが多いでしょう。しかし、ビジネス文とは種類の違う文章です。

 

2 「演出」が使えるか

芥川賞作家・藤原智美の『文は一行目から書かなくてもいい』では、裏表紙に、本文の文章が引かれています。そのはじめの一行は、<文章の本質は「ウソ」です>となっています。文章には、演出が必要だということです。

ノンフィクション作品でも、<創作や演出はあります>と言うのです。藤原がそのことを意識した事例が紹介されています。メーカーの開発担当者が忙しくて2週間に一度しか家に帰れなくて、夫婦仲があやしくなってきた話を書いたときのエピソードです。

開発担当者が、ようやく難題をクリアして開発に成功したことを妻に告げるシーン。私は淡々と「妻も喜んだ」と書きましたが、編集者は「ここは、『妻は涙ぐんだ』にしましょう」と修正しました。

藤原が言うように、実際には不明でも<「涙ぐんだ」と具体的なアクションを描写したほうがドラマチック>なことは確かです。しかし、ビジネス文でこうした演出は使えません。小説やノンフィクションとビジネス文では、書くための目的が違うということです。

 

3 ビジネス文の条件と目的

ビジネス文を書く場合、結論が見えていて、その理由も見えているのが原則です。もちろん、この条件では結論が出せないと書くべき場合もあるでしょう。大切なことは、書きながら言うべきことが変わることがあってはいけないということです。

言うべきことが明確になっていることが、よいビジネス文の条件です。書きながら、詰めの甘いところに気がついたら、その文章は破棄するしかありません。もう一度、必要なところを詰めてから、書き出すべきです。

藤原は言います。<構成を固めてから書くべきか、書いてから構成を考えるか。私の場合は後者です>。<最初に構成を固めすぎると、後からの大胆な変更は加えづらくなります>。こういう書き方のほうがよいノンフィクション作品ができそうな気がします。

文学者の書く文章には素晴らしいものがたくさんあります。その書き方にも興味が惹かれることでしょう。しかし、書く目的が違う点を忘れてはなりません。ビジネス文を書く目的は、おもに業務を行った人の報告とコメントを簡潔・的確に伝えることにあります。