■公用文の書き方とビジネス文の書き方の相違
1 公用文のルール
公務員が国民や住民向けに書く文章が公用文です。公用文は、誤解が生じないように気をつけて書かれています。その書き方の工夫は、ビジネス文を書くときにも参考になります。「より」と「から」の使い分けなど、何となくお聞きになったことがあるはずです。
「より」は比較のときだけに使い、「から」と言い換えができるときには「から」を使うというルールです。範囲を示すときには、「まで」をつけて「~から…まで」と記述するというルールもご存知でしょう。こうした誤解を起こさないための工夫があります。
公用文の場合、漢字とひらがなの使い方が細かく決められています。常用漢字表にそった漢字の使い方や、送りがなのつけ方にも決まりがあります。それらは文化庁の「公用文の書き方資料集」にあります。ビジネス文の場合、そこまで厳格なルールはありません。
2 主述の対応関係が第一
文化庁の資料集だけでは、なかなか公用文は書けないのでしょう。よく読まれているのが磯崎陽輔著『わかりやすい公用文の書き方』のようです。この本の第1章「公用文の書き方のルール」で、公用文は辞書の表記やマスコミ用語と違っている点を指摘しています。
2章以降、具体的なルールが示されます。最初のルールが、<主語に対応する述語があるか、必ず読み直す>…となっているのは、当然かもしれません。主述の対応関係が論理性の基礎になっているからです。論理的でない文は不明確で、わかりにくくなります。
以下、「漢字と平仮名」「送り仮名」「句読点」「文体」「項目番号及び配字」「名詞の列挙」「通知文の書き方」と続きます。これらのうち、「文体」の章に重要な指摘があります。それ以外の章は、あまりビジネス文には適合しません。
3 適用可能な「文体」のルール
公用文の文体は「である」体が原則になります。(1)「ます」体との混用は禁止、(2)「だ」体は使わない…ということです。例えば、「だろう」ではなく、「であろう」を使います。「だ」体を使わないという指摘が大切です。
ただビジネス文の場合、「です・ます」体が増えつつあります。今後、注目すべき点でしょう。また公用文の場合、あいさつ等の例外を除き、敬語表現を用いないことを原則としています。ビジネス文でも例外が多くなるものの、同じ原則が適用になります。
先に触れた「より」と「から」の使い分けや、カッコの中に丸をつけずに、カッコを閉じたあとに丸をつけるというルールも、ビジネス文に適用されるべきものです。ビジネス文の場合、ムダなカッコをつけないこと、カッコを減らすこともルールとすべきでしょう。
4 使えそうにないルール
公用文のルールの中には、使えそうにないものもあります。読点の7つのルールなど、例外が多々あって、採用はむずかしいだろうと思います。かつてこれを真似しようとした会社もありましたが、実際にはうまく行っていません。
横書き文書の項目番号も採用できません。公文書では大項目から順に、1⇒(1)⇒ア⇒(ア)…の項目番号になります。しかしビジネスの場合、項目数がいくつあるのかを明確にするために、数字をつかうべきです。1⇒1-1⇒(1)⇒① の方が便利でしょう。
名詞の列挙ルールの場合、「鉛筆、万年筆及びボールペン」なら3つすべて、「鉛筆、万年筆又はボールペン」ならどれか1つを意味します。これは紛らわしくて採用できません。「鉛筆・万年筆・ボールペン」の「3つすべて」「どれか1つ」でこと足ります。
公用文の場合、ビジネス文よりも変化が穏やかで、時間的な制約も緩やかだったのでしょう。そのためルール化しやすかったのだろうと思います。ルール化が適切になされていないビジネス文を考えると、公用文のルールはヒントを与えてくれるだろうと思います。