■日本語口語文法のために

 

1 述語を基本にする

小松英雄の日本語文法再構築論にふれたところ、口語文の日本語文法はどうすべきか聞かれました。簡単に答えられません。いくつか問題点を提示してみます。まず文法の対象を述語文中心とし、「まあ!」「お茶」「おはよう」などの独立語の文を例外とします。

述語文を、現行文法は3つに分けます。述語の核になる語の品詞によって名詞文、形容詞文、動詞文としています。これには異議があります。なぜ品詞で日本語の口語文を分けなくてはならないのか、わかりません。英語なら述語は動詞です。判別は容易です。

日本語の述語は動詞に限らないので、品詞でひとまず分類したのかもしれません。現行文法が「品詞分解」中心というのは、小松の指摘にもありました。これによってかえって意味が見えなくなりはしないか懸念します。大切なのは品詞でなく文の意味のほうです。

 

2 基本形を考えてみる

では日本の口語文に、基本構造があるのでしょうか。基本の形を考えるとき、主述関係と必須成分が問われます。『日本語教師養成シリーズ4』で佐治圭三は、「私は、明日、友人と、JALで、北京に、行く」という文を、以下のように成分わけしています。

「行く」がコトを描くためには、その主体である「私は」と、行きつく先である「北京に」が必須成分、時を表す「明日」は状況成分、手段を表す「JALで」、やり方を表す「友人と」も状況成分である。状況成分の中には、時、行動の行われるところ、手段、方法、やり方、原因、理由などを示す成分が含まれる。

述語に接続される成分のなかで、文を成立させるのに不可欠なものが必須成分です。現行文法では、これらを判別する方法が明示されていないようです。主述関係の判別に加えて、必須成分を助詞の使い方と5Wの関係で判別したらどうか…というのが私見です。

つまり、助詞の使い方という作用の形式と、5Wという意味の実質を組み合わせたなら、必須成分を抽出できるのではないかと考えたのです。さらに成分の組み合わせから基本形が構成できるのではないかと考えました。

 

3 助詞なしでは文意が取れない

こうした考えは、失語症と呼ばれる脳の障碍によって言葉の読み書きが困難になった方々とのおつきあいから生まれました。失語症の方の中には、助詞がうまく使えなくなる人がいます。助詞が使えないと、文の意味がなかなか理解できません。

単語だけを並べても正確な意味がわからないのです。「は・が・を…」といった助詞があってこそ、語句の役割が見えてきます。さらに助詞の使われ方にある種のパターンがありそうでした。これが基本形なのかもしれません。私の試みはささやかなものです。

現在まで発表されている日本語の口語文法に、決定版はなさそうです。多くの人が使えて、その効果に満足できる文法を作るには、そうとう苦労することでしょう。小松英雄が言う「文章を読み解くために役立つ」文法が必要なのだろうと思います。