■業務マニュアルと業務改革
1 業務マニュアルの多義性
業務マニュアルの概念は、単純明確なものではなくなっています。作業を標準化することを目的とするマニュアルは、もはや例外になりました。かつて肉体労働を manual work と言った頃とは、状況が変わってきています。
業務マニュアルが多義的な概念になったと言うことでしょう。業務マニュアルという言い方をしながら、単一の形式の文書を想定していないことに気づきます。作業手順を書いたマニュアルも業務マニュアルに違いありません。しかし、他の形式もあります。
いま業務マニュアルを業務改革の武器と考える企業が出てきています。業務改革を試みた人たちが、結局のところ、業務マニュアルがないと実際の改革を実行に移せない、ということに気づき始めています。いま注目されるのは、この概念の業務マニュアルです。
2 組織の社会的な役割と業務手順
かつて業務マニュアルの基礎的な作り方について書きました[業務マニュアル作成の基礎]。ここで想定していたことは、各業務の手順を書くことでした。これが業務マニュアル作成の基礎になります。多くの場合、まず、こちらを作成することになります。
こうした業務マニュアルは、いわば会社に出勤してから退社するまでに、何をしているかを聞かれた時に、答える内容です。業務のあれをやり、これをやりということを、ほぼ時系列に並べたものです。これがわからないと、仕事になりません。
一方、あなたはどんな仕事をしているのか、一般人がわかるように書いて欲しいと言われたら、何を書くべきでしょうか。おそらく自分の業務について書くだけでなく、組織の社会的役割や、どうやって仕事になっているのかという点も書く必要があるはずです。
3 会社のかたちから見直すことが改革
業務マニュアルには、2つの側面がありそうです。一つは、出社から退社までの間に、どんな業務を、どのように行っていくのかを書くものになります。もう一つは、自社の組織としての責任やビジネスモデルをふまえて、各業務を記述するものです。
組織全体の業務のあり方を書くもの、つまり業務のかたち・指針を書くものが後者です。これは組織の社会的正統性を裏づける重要な文書になります。こちらがしっかりしていないと、業務の手順をいくらていねいに書いても、業務が発展していきません。
各業務の作業手順を改革することも業務改革と言えなくはありません。しかし、本来の業務改革は、会社のかたちを作り直す作業のことだろうと思います。ミッションがしっかりしているなら、細かい業務の手順が書かれていなくても、臨機応変の対応ができます[業務マニュアルとミッション]。
付加価値を生む業務が重要になるにつれ、組織における業務のあり方を根本から見直すことが必要になっています。これを記述する文書を業務マニュアルと呼ぶ場合、業務マニュアルの作成が、そのまま業務改革につながると言えます。