■業務マニュアルをめぐって:行動規準とOJT

1 多義的な業務マニュアルの概念

先日、小さな研究会で業務マニュアルのお話をさせていただきました。そのとき、業務マニュアルの概念が、各人かなり違うことを感じました。業務マニュアルというのは、多義的な用語だと改めて感じました。

出席された方は、実務家の方がほとんどでしたから、自分達の業務をもとに、業務マニュアルをお考えなのは当然だろうと思います。業種によっては、標準化を重視する人もいらっしゃったようです。

かつての業務マニュアルは、標準化された作業手順を書くことを中核にして成立していました。現在の業務を見ると、さまざまな業務の手順をすべて書くことは現実的でなくなっています。

標準化された業務が一部にとどまる現状にあわせて、業務マニュアルも考え直さないといけないと思います。臨機応変の判断を適切に行うには、どうしたらよいのか。こうした点を考慮した業務マニュアルであるべきでしょう。

業務マニュアルの概念を考えるときに、業務の目的が何であるのかという点を意識することが必要です。そのためには、組織の目標が明確になっていることが必要です。原則があるからこそ、判断できるということになります。

2 東京ディズニーランドのSCSE

東日本大震災のとき、東京ディズニーランドの対応はすばらしかったと言われています。普段、入場者に見せないようにしているバックヤードにすぐに誘導して、お客様の安全を確保しています。その後の対応もすばらしかったとの報道がたくさんなされました。

オリエンタルランドのHPを見ると、行動規準として「SCSE」というものが記されています。<Safety(安全)、Courtesy(礼儀正しさ)、Show(ショー)、Efficiency(効率)>からなっています。

<全キャストにとって、ゲストに最高のおもてなしを提供するための判断や行動のよりどころとなっています>。さらに、<「SCSE」は、その並びがそのまま優先順位を表しています>…とのことです。

緊急時に、まず安全を重視した行動がとられたのも、こうした基準が示されていたためでしょう。<東京ディズニーランド、東京ディズニーシーを運営するにあたって最も大切にしている基準です>と、書かれています。

こうした基準があるならば、個々の対応について詳細な指示を書かなくても、各人の判断で行動することができます。業務を考えるとき、今後ますます、こうした行動基準が重要視されるものと思います。

3 OJTの手法も業務マニュアルの一部

業務マニュアルを書いていない会社は、たくさんあります。何でこんなすばらしい会社なのに…と思うことがあります。かつての標準化という意識にとらわれていると、業務マニュアルは書けなくなります。

全ての業務を標準化することはできません。指針を出すことが大切です。実際の業務を行うに際して、大切になるのはOJTでしょう。標準化された業務であっても、あえて全ての手順を記さなくても、OJTで業務水準を維持できるケースはたくさんあります。

したがって、OJTのやり方を組織の側で工夫する必要があります。各人のやりかたに委ねても問題ない業務の場合、OJTのやりかたの詳細を決めておく必要はありません。問題は、OJTの良し悪しが、業務に大きな影響を与える場合です。

大切な業務を身につけてもらうために、組織は効果的なOJTの実施方法を、大切なノウハウとしてもっておくべきです。効率的なOJTの手法を、組織側が管理して発展させていくことが重要になります。

マクドナルドのハンバーガーショップでのサービスが、マニュアル化されたものであることは知られています。しかし、そのサービス水準を維持するために、紙に書かれたマニュアルが中心的な役割を果たしているわけではありません。

指導方法を学ぶコースを受けて、適切な指導がなされているはずです。当然、そこにたくさんのノウハウが積み重ねられています。OJTの手法を記した文書も、業務マニュアルの重要な部分を担っているということになります。