■「は」「が」をめぐって その2
▼「は」と「が」の使い分けはむずかしい
日本語を母語として育ってきた人間は、「は」と「が」の違いを簡単に使い分けられます。しかし、外国語として日本語を学んだ人にとっては、そんなに簡単に使い分けできるものではありません。
日本文学研究者のドナルド・キーンさんは、日本語を読む能力だけでなく、書く能力も飛びぬけた人ですが、それでも「は」と「が」の使い分けが、よくわからないと書いていました。
外国語として日本語を学んだ高さんは、どうやって「は」と「が」を使い分けているのか、お聞きしてみました。大変苦労したようです。
▼高さんの第1ルールから見えてくるもの
高さんは、「は」と「が」を使い分ける4つのルールを挙げてくださいました。今回は第1ルールを考えて見ます。
【第1ルール】能力や意思を表したい場合、主題の後に「が」が来る。
このルールを見て、文法学者ならガクンと来るかギャフンとします。しばしば見られる文法的な説明によると、主題のあとには、「は」が来るのです。このルールとは逆に、主題のあとには、「が」がつかない点を強調しています。
一般に「が」が接続するのは主格だと説明されます。しかし、高さんの第1ルールは、主格では成り立ちません。主題と主格を取り違えたわけではありません。ではどうしたのでしょうか。
上級者は日本語の文法を自分なりに修正しているのではないでしょうか。学説は立派でも、書くときにそのまま使えなかったら、修正するのが正しい態度でしょう。こうしたことが第1ルールから見えてきます。
▼主題と主格の確認
主題というのは、テーマのことです。日本語の場合、「今日はコンサートに行ってきました」という言い方が普通になされます。当然、日本語として正しい使い方です。この「今日は」という語句は、主題ではあっても、主体ではないのです。
あるいは主題と主格が違います…といわれても、簡単にはわからないはずです。定義が不明確なのです。『日本文法大辞典』(明治書院)の記述によると、主格とは、述語の主体に「が」の付着したものというのが、通説のようです。
▼第1ルールの修正
高さんの第1ルールは、主体でなくても「が」のつく場合がある、という点を意識したものでしょう。
状況や情景について記述する文型(私のいう第2文型)では、主体でない語句に「が」が接続します。その意味では、第1ルールは修正が必要です。能力や意思ではない好き・嫌いにあたるものにも「が」がつきますから。「私はロバが好きだ」という例です。
では、どう修正したらよいのでしょうか。(この項つづきます。)