■小澤征爾の基礎訓練:カラヤンの方法とビジネス文書
1 クラシック界の帝王 カラヤン
小澤征爾が語ったクラシック音楽の話の続きです。『阿川佐和子の世界一受けたい授業』に掲載されています。小澤征爾は斎藤秀雄の「音楽の文法」というべき分析を基礎にして、斎藤流の訓練を受けてきたので、世界でやっているようになったということでした。
もう一人、カラヤンの教えが小澤に大きな影響を与えています。ヘルベルト・フォン・カラヤンという指揮者の名前は、クラシック音楽を少し知る程度の人でも、知らない人がいないほどでした。いまでは、かつてほど圧倒的ではないかもしれません。
小澤が言うように、[レコードをあんなにたくさん吹き込んで、史上初めて指揮者として儲かっちゃったもんだから、“帝王”と呼ばれるくらい力が強くなっちゃった](p.21)。ありがたいことに、いまでもたくさんの演奏を聞くことができます。
カラヤンについて、ずいぶん色のついた話が流れました。小澤は[先生が持っている二つのいい面が忘れ去られちゃっている]ことを残念に思っています。[天才的な音楽の基礎、理解力とかスコアの読み方をもっていたこと]と、ストイックなことです。
2 天才だったカラヤン
小澤がカラヤンを初めて訪ねた頃、[『フィガロの結婚』とかは自分でチェンバロ弾いて、そこから指揮してたの。それ、できる人は本当に天才なんですよ」。カラヤンという指揮者はしっかり基礎からやってきた人だったということです。
小澤がカラヤンから最初に教えられたのは、ブラームスの交響曲1番の最初のところの指揮の仕方でした。[フルート一本とバイオリンセクション十六人]で始まるところで、小澤は[バイオリンを合わせようと必死になって、そっちばかり指揮していた]とのこと。
カラヤンが言いました。「ちょっと待て。汗水たらしてファースト・バイオリン指揮するよりも、仕草でバイオリン全員にフルートを聞くように伝えろ」と(p.20)。[やってみたら、全くその通り][二回でぴったり合いました]ということです。
[バイオリンの人はフルートを聞くために小さい音で弾く。そうするとフルートの音も出てくる]ということでした。カラヤンは言います。「作曲家はそれを狙ってたんだよ。これが、この部分のオーケストレーションだよ」。たぶんカラヤンは天才なのでしょう。
3 リーダーになるための条件
斎藤秀雄なら[ちゃんとバイオリンを指揮させてたから、そんなことは言わないです。だから、漢字の楷書]です。カラヤンは基礎があることを前提としての指導でした。[最初からカラヤン先生についてたら、こんなに指揮がわからなかった]と小澤は言います。
文章を学ぶときも、たぶん同じ段階があるように思います。きちんとした文法を学ぶ。それにはそれなりの時間もかかりますし、苦労もするはずです。しかし、それをやったあとなら、文章ごとに、その意図がどこにあるかを探っていくこともできるでしょう。
かつて英文法は、階級を超えるためのツールにまでなりました。仕事で使う文章がきちんと書けるようになったら、上流階級の仲間に入れるようになれたのです。現在は、上流階級というよりも、リーダーになるための条件になっているということかもしれません。