■品詞分類の問題点 その2 「形容動詞」への疑問:言葉の分類基準
1 言葉の分類基準の確認
言葉を分類するときに、どんな基準で分類するのがよいでしょうか。私たちはしばしば品詞の基準に合わせて言葉を分類しようとしがちです。品詞分類には分類基準が示されています。それが妥当なことなのか、基本に立ち返って考えてみたいのです。
どんな基準で言葉を分類するのが良いのでしょうか。品詞ならば、活用する語と活用しない語で用言と体言に分かれます。活用する・しないというのは、誰にでも分かる基準なのでしょうか。品詞分類のために活用形が用意されている気配が濃厚です。
ひとまず品詞分類を忘れて、言葉の種類分けをするためにどんな基準が使えるか考えてみましょう。以前、「です」に接続する言葉と「ます」に接続する言葉で2分して、さらに「だ・である」に接続するかどうかを組合わせて言葉を3つに分けてみました。
ある特定の語句に接続が可能か不可能かで言葉を種類分けするのは、私たちの感覚にそったものと言えるでしょう。知らずに私たちは接続の可否を身につけています。接続によって言葉を分けることは可能です。では、こうした接続で何がわかるのでしょうか。
2 「です」「ます」の接続:「静的」「動的」
まず「です」と「ます」の接続についてみてみましょう。「です」に接続する言葉は名前や、そのときの様子や状況を切り取った状態を示します。動かない「静的」な言葉です。一方「ます」に接続する言葉は、変化することを表す「動的」な言葉になっています。
「です」「ます」接続の確認によって、言葉の「静的」「動的」の判断ができます。「動的」な言葉とは品詞でいえば動詞です。「ます」接続にするには、動詞の終止形「ウ段」の語尾を「イ段」(連用形)に変えます。「動く」ならば「動きます」になります。
さらに「だ・である」を接続してみると、言葉がまた2分されます。「ます」接続可能な言葉には「だ・である」は接続しません。「です」接続可能な言葉でも「だ・である」がつかない言葉があります。「きれいだ」とは言えても、「美しいだ」とは言えません。
「だ・である」を接続させることによって、何の確認が出来るのでしょうか。静的な言葉の中でも形容詞に当たる言葉の場合、「だ・である」接続ができません。この接続によって、何が確認できるかを考えることによって、言葉の分類の意味が見えてきます。
3 「形容動詞」でなく「形容名詞」
「だ・である」が接続する言葉には語形の変化がないのに気づくかもしれません。「きれい」という語の場合、「な」や「に」が接続して「きれいな」「きれいに」となりますが、「きれい」の部分に語形変化はありません。これは活用しないということです。
語形変化がある言葉の場合、「の」や「こと」を接続して語形を固定化します。「動くのが」「動くことは」のように、「の・こと」を接続することによって固定された言葉と同様、文の主役にもなれます。活用しない言葉の場合、接続に「の・こと」が不要です。
これは「です・だ・である」と「のです・のだ・のである」を接続してみれば確認できます。「森さんです・森さんだ・森さんである」、「美しいのです・美しいのだ・美しいのである」、このように接続を見れば、言葉が種類分けされているのがわかるはずです。
従来の品詞分類でいうと「きれい」も「幸せ」も形容動詞という品詞に該当します。活用形は[だろ/だっ・で・に/だ/な/なら/×]とのこと。たとえば「幸せだろう/幸せだった・幸せでない・幸せになる/幸せだ/幸せなとき/幸せならば/(なし)」です。
こうした接続を強引に活用だというなら、「社長だろう/社長だった・社長でない・社長になる/社長だ/社長のとき/社長ならば/社長になれ」と命令形まである「活用形」が名詞でも作れます。活用形は[だろ/だっ・で・に/だ/の/なら/なれ]でしょうか。
何のために言葉の種類分けをするのか、どういう基準で種類分けをしたらよいのか、こうした基礎から考えていくと、従来の品詞分類の問題点に気がつくはずです。「形容動詞」というよりも、活用しない言葉ですから「形容名詞」というべき言葉の種類でしょう。