■リーダーと言葉:読み・書き・話す能力

 

1 リーダーに必要な能力

企業のリーダーやリーダー候補の人が文章の訓練にいらっしゃることが時々あります。ずいぶん謙虚な方々だと思いますが、ご本人たちにしてみれば、切実な問題なのでしょう。自分は文章を書く訓練をきちんとしてこなかったと感じているようです。

リーダーになれば、自分の考えを明確にしなくてはなりませんし、それを正確に伝えなくてはなりません。読み書き話すことが重要になってきます。基礎的な能力ですから、必要性はリーダーに限ったことではありませんが、リーダーの場合、切実なことでしょう。

▼経営管理者は、情報という特有の道具をもつ。経営管理者は人を操ろうとしてはならない。一人ひとりの仕事について、動機づけし、指導し、組織しなければならない。そのための唯一の道具が、話す言葉であり、書く言葉であり、数字の言葉である。 『現代の経営』下 p.217(以下エターナル版)

マネジメントと言葉の関係については、1954年刊行の『現代の経営』で、早くもドラッカーが書いています。[経営管理者の仕事の成果は、たとえそれがエンジニアリング、経理、販売のいずれであろうとも、聞き、読み、話し、書く能力にかかっている]のです。

 

2 リーダーに最も欠けている能力

50年前に重要だとされたことが、現在でも重要な問題です。そして同じような状態なのかもしれません。ドラッカーは書いています。[経営管理者に必要なスキルのうち今日の経営管理者に最も欠けているものが、この読み、書き、話し、数字で表す能力である]。

ビジネスで言葉と数字が重要なのは、日本でもアメリカでも、いつの時代でも変わらないのでしょう。しかし習得の対象がずれているのか、習得するための訓練が足らないのか、効果を上げる訓練法が確立していないのか、基本スキルの習得は簡単でなさそうです。

▼経営管理者は言葉を知る必要がある。言葉とは何であり、何を意味するものであるかを知らなければならない。そして何よりも、人に与えられたもっとも貴重な能力としての言葉を尊重することを学ばなければならない。 『現代の経営』下:p.218

おそらくこのことが一番のネックになっているのではないでしょうか。いまどき「言葉を尊重しましょう!」とうたった講義など、聞く人がいそうにありません。講座自体が成り立たない可能性があります。しかし基礎に戻るしかないことも事実なのです。

 

3 本格的に取り組むこと

基本的な読み、書き、話す能力、数字で表す能力を身につけるには、時間がかかります。
安直なスキルを身につけても、役に立たないのです。ドラッカーは注記しています。[改善が必要とされている能力は、速読やスピーチのスキルとは直接の関係はない]。

▼われわれは、時間管理について霊験あらたかな万能薬を求める。速読法講座への参加、報告書の1ページ化、面会時間の15分制限などである。だが、これらのすべてがいかさまである。それこそ時間の無駄である。 『現代の経営』下:p.218

もし必要なスキルを身につけようと思ったら、本格的に取り組むほうが良いということになります。[時間はかかるかもしれないが、結局は時間の節約になる](p.219)ということです。安直な方法を採ると、結局ものにならないと言ってもよいでしょう。

リーダー向けの読み書き講座では、基本習得と同時に練習方法を身につけていただいて、継続できる形式をとります。しかし継続する人が少数になるのは想像がつくでしょう。基礎的なことの習得には時間がかかります。やり抜く人が本物のリーダーなのでしょう。