■履歴書の自己PRについて:会社の対応の違い

 

1 かつて絶賛された自己PR

今から10年以上前の2003年から2006年、朝日新聞の夕刊に「炎の作文塾」が連載されました。学生の文章をプロが添削するコーナーでした。添削者は名文家と知られた川村二郎。自己PRの文字数は現在おおくは200~300文字ですが、ここでは400文字です。

『炎の作文塾』という本にまとめられました。投稿されたものの中に、「本気になること、そして一生懸命であることほど、人の心をつかむ者はない。改めてそのことを教えられた気がする」と書いて、絶賛された自己PRがあります。

添削後のものを再現してここに示します。400字の原稿用紙に段落つきで書かれていました(▽は段落の印)。最近の学生に見せると、今と全然違うと言って、記述の仕方とその内容に驚きます。学生にとって、こういう形式は想像できなかったのでしょう。

▽生まれは岩手。高校まで甲子園だけを目指して過ごした。体は小さくてもよく動く。
▽仙台での**大学時代は、草野球チームを率い、自転車で東京まで一日で行った。アメリカ遠征もチームと一緒だった。レンタカーを借りて大陸を横断した。そのとき、野茂からグラブにサインをもらった。そのグラブが宝物だ。
▽卒業後、人の役に立ちたくて、介護事業も手がける教育系出版社に入社した。そこで、身体に障害のある方に直接役立つには、専門技術が必要なことを実感した。四年後、「理学療法士」の資格を取るために、再び受験し、幸運にも今の大学に滑りこんだ。
▽十歳近く年下の同級生は、全員が「やまちゃん」と呼んでくれる。本当にありがたい。回り道をした。貧乏でも恵まれた環境で張りのある毎日を過ごしている。同い年にヤンキースの松井がいる。いつも彼方にいるけれど、いつか背中が見えるように努力するぞ。

川村二郎は講評の最後を以下の言葉で締めくくりました。

▼理学療法士になっても、言葉は命です。きみにしか言えない、あるいは君らしい言い方を考えてください。人を相手にする仕事はすべて「はじめに言葉ありき」と思ってください。/ 力強い文章を送ってくれてありがとう。

 

2 落ちている平均の文章力

「私の強みは…です」と書いて、そのエピソードを添える形式の自己PRが一時期広がりました。こんな形式で書けば、当然のことレベルは地に落ちます。近年、自己PRをほとんど見ない会社が普通になっていました。不幸なことです。

自分の強みなど、まだ学生にはわからないものです。社会で発見していく必要があります。それを勝手にひねり出して、それに合わせたエピソードを考え、現実を作文に合わせて加工していくのですから、読む気がなくなるのも仕方ありません。

「私の強みは…です」などと生の言葉で書いてはいけないのです。これでは本人の本当の強みなど伝わらないでしょう。一生懸命ですなどと書かなくても伝わる内容のほうがよいのです。しかし200~300文字になって、この手法が簡単に取れなくなりました。

つまらない自己PRが多くなったのはたしかでしょう。川村二郎が文章を添削していた時期、すでに学生の文章力の低下が言われていました。いま採用側も反省の時期にあるようです。さまざまな形式で学生から言葉を引き出そうとする会社が増えています。

 

3 探せば必ずいる飛び抜けた学生

ここ数年で状況が変わってきたようです。人手不足になってから、本気で文書をチェックしている様子の会社が出てきました。まだ少数派でしょうが、いい人材を採用した会社の中には、履歴書の200~300文字の文章をきちんと読んでいる会社があります。

百聞は一見にしかず…ですが、一見するために文書で確認するというのが正統派の考え方だろうと思います。一つの自己PRを読むのにかかる時間は30秒からせいぜい1分くらいでしょう。流れが大切です。すっと読めて、何か感じたなら一見する価値はあります。

学生が本気で文章の練習をするのは、就職活動の時期です。多くの学生が時間をかけて文章を書いています。際立って素晴らしい文章を書く学生が毎年、何人か出てきます。必ずしも成績がいい人ばかりではありません。そういう人たちに特徴的なことがあります。

会社への提案がたいてい面白いのです。創造的なものばかりではありませんが、少なくともユニークではあります。今年も提案を次々書いてくる学生がいて、どれも斬新なものでした。「斬新って褒め言葉ですか?」と聞かれました。あまり語彙は多くないのです。

入社時の文章力は、その後に大きな影響を及ぼします。ビジネス人の文書訓練に関わってみると、会社側が入社時の文章力を確認していないのではないかと思うことがあります。自己PRを見るだけで、十分チェックできたはずです。飛び抜けた学生は必ずいます。

 

【お知らせ】
 

カテゴリー: 会社, 文章 パーマリンク