■ルールの効用について:成果を上げるよいルール
1 資金不足の危機への対応策
ルールを決めても、ルールが守られなかったら意味がありません。ルールが守られるためには、いいルールである必要があります。いいルールとは、成果を上げやすくする基準のことです。そのルールがあるおかげで、効率がよくなったり迷いがなくなるものです。
具体的にはどういうものか。『スイッチ!』(チップ・ハース&ダン・ハース著)にいい事例があります。ブラジルの鉄道が民営化されたときに、それを買った会社があります。このALLという会社には当時、現金が3000万ブラジル・レアルしかありませんでした。
経営を任された[ベーリングには腕の振るいようがなかった]とのこと。一本の橋の修復に500万レアルかかるような状況ですから、壊れた橋をすべて修理することなど不可能です。銀行預金はゼロ同然ですから、どうにもなりません。お手上げ状態に近いでしょう。
こういうときにベーリングが最優先したことは、[資金繰りの苦しい危険な財務状態から脱却させること]でした。ここまでは誰でも同じ考えになるかもしれません。しかし実際にどうすべきか、簡単ではありません。ベーリングは4つのルールを提示しました。
2 4つのルールの内容
ルールを作るときに必要なことは、そのルールによって何を達成するかを明らかにしておくことです。ルールができた結果、その目的に適う効果が出てこなかったら、そのルールは適切ではありません。ベーリングの作ったルールはうまく機能しました。
ベーリングは資金難を解消するための方法として、[少し使って少し稼ぐという考え方]で行くしかないと考えました。そのためには[資金が増えて返ってくるという保証がないかぎり、資金は使用されない]状況にするルールを作ったのでした。
ルール① ALLに短期的な収益をもたらすプロジェクトにのみ資金を投じる。
ルール② 問題の最善の解決策とは、たとえ長期的にコストが多くかかっても、品質面で劣っても、先行投資が最も少なくてすむ解決策である。
ルール③ 長期的にはより優れた解決策ではあるが、時間のかかる選択肢よりも、問題をすばやく解決できる選択肢を優先させる。
ルール④ 新たな資材を購入するよりも、既存の資材を再利用またはリサイクルする方が望ましい。
まさに[この四つのルールは明確]です。
ルール①は、短期で収益が上がるものにしかお金を出さないという原則。
ルール②は、複数の投資案件があったら投資額が最小のものを選ぶとの基準。
ルール③は、解決が早いものを優先するとの基準。
ルール④は、新規の投資よりも既存のものの利用を優先させるとの基準。
[①収益を上げる。②先行投資を最小限に。③最善よりも最速。④あるものを使う。]というルールに従ったなら、少しの資金でも少しの儲けなら出るはずです。少しの資金から多くの儲けが出るのは理想ですが、それを狙ってはいません。現実的な解決策です。
3 成果を上げるよいルール
『スイッチ!』のハース兄弟は意思決定のむずかしさを、ある研究成果を使って示します。人工股関節置換手術をすべき症状をもつ患者に対して、症状改善の可能性のある未使用の薬が見つかった場合、ドクターはどう判断するか…という研究を紹介しています。
薬の数によっても結果に違いが生じます。未使用の薬が1種類の場合、47%のドクターが手術の前に投薬を試すと答えました。一方、未使用の薬が2種類の場合、どちらかの薬を試すドクターは28%に下がります。選択肢が増えると、試す人が減るのです。
「意思決定の麻痺」と呼ばれる現象が起きます。[選択肢が増えると、それがどんなによい選択肢でも、私たちは凍りつき、最初の計画に戻ってしまう]というのです。予後に心配のある手術をする前に投薬を試みるほうが合理的なのに、こんな結果が出ます。
こういう場合、ルールが役立ちます。病院がルールを設けて、その中の一つの項目が例えば、[「メスは最終手段としてのみ用いる」だったとしよう。このガイドラインを設けていたら、医師の意思決定に大きな変化が生まれていたことはまちがいない]でしょう。
前記のベーリングが作った4つのルールはどうなったでしょうか。[ベーリングの手法は報われ始めた。ALLの業績は、1998年の8000万レアルの純損失から、2000年の2400万レアルの純利益まで持ち直した]のです。よいルールがあると大きな成果が上がります。