■日本語文法書の構想:英語の解説書を参考に
1 採用したい記述の方針
日本語の文法書は、読み書きのためには使えそうにありません。残念なことです。読み書きのために使える文法書があったらよいと思います。そんな思いがあって、英文法の解説書をふと手にとって参照しています。記述の方針や実際の記述の仕方を見るためです。
富田一彦『ビジュアル英文解釈 基本ルール編』を見たら、本の目的が、①コンパクトであること、②複雑すぎないこと、③例外が少なく、あっても説明しやすいこと、④初めてのものに出会っても応用が利くこと…となっていました。このまま採用したくなります。
はじめに、英語は語順によって意味を伝える言語であることを指摘します。ここで大切なのは、各動詞が「文型」の指定をしているという点です。次に、英語は前から順番に文を読めばよい、後ろから前を考えることはない…という「迷信」を否定しています。
2 文型の判別が大切
英語の述語は動詞しかありません。その動詞ごとに特色があって、文型を指定することによって語順が決められます。動詞が文の要素を束ねているということです。文型を決める文の要素には、主語・目的語・補語があります。これらの要素以外は修飾語です。
動詞だけを見ても意味が確定できません。文型がわかってはじめて動詞の意味がわかるということです。ここは日本語と違います。日本語なら、動詞の意味はその語をみればわかります。一方、英語では動詞をマークに文型を判別することが大切なことです。
英語では文型と動詞の関係が問題になります。いわゆる五文型の解説です。一方、日本語では、文型を決める文の要素に特定の助詞が接続します。特定の助詞がついた語句は文の要素となって、述語と対応関係を作ります。この対応関係により文型が確認できます。
3 文法用語の名前の付けかた
英語の解説書を見ていてうらやましいのは、使われる用語の定義が確立していることです。道具自体が安定していますから、その説明が明快です。この点、日本語の文法にはなかなか一般になじみのある用語がありません。ここが問題です。
ただ英語の文法用語でも本当に使うものは、せいぜい1ダース程度でしょう。そのうち、主語・述語(動詞)、接続詞、受け身(受動態)などは再定義すれば使えます。目的語・補語、不定詞・動名詞、句・節、関係詞…などは日本語文法で使えない概念です。
この中でも一番問題になるのが、五文型の要素となっている目的語と補語に該当する日本語の要素の概念と名前だと思います。機能で言えば「述語に付加すべき意味を補強するキーワード」、概念なら「述語の目的や対象などを示して文の骨格を作る語句」です。
日本語の場合、助詞をマークにしますから、概念をもとにした名前はふさわしくないのかもしれません。たとえば、<行き先・存在地につく「に」>ならわかりやすい…という意見もいただきました。名前の付けかたは簡単ではないなあ…と思います。