■組織の自画像としての業務マニュアル:体系化の条件
1 業務の体系
業務マニュアルは、組織の「業務のかたち」を書くものです。その組織の業務がどんな体系で回っているかを記述する文書といえます。自分達のビジネスの姿を自ら記述するものです。組織で業務が運用されている以上、業務の体系があるに違いありません。
ところが実際には、業務マニュアルを手順書としてのみ記述するケースがしばしば見られます。業務の体系を聞き取ろうとすると、複雑で簡単に説明できないという種類の答えになりがちです。自分の組織の業務を、体系化・モデル化できていないのは困ります。
業務マニュアルを見たりお話をお聞きする限り、多くの組織は業務を体系化するという意識が弱く、その種の話は得意でないという感じをもちます。ささやかな仕組みの話が多く、自分達のビジネスについて、大枠を明確に意識することがほとんどないようです。
2 自画像が描けない日本人
西尾幹二と中西輝政は『日本文明の主張』の中で、方法や壮大な理論、学問の体系を作る条件について言及しています。ビジネス人に限らず、学者も含めて日本人は体系化が苦手だと指摘しています。その条件が、そのままビジネスに当てはまりそうです。
中西は<理論なり学問の体系を作る>には、<ある種の「阿漕さ」が必要>だと言い、西洋の学問には、<「あくなき自己正当化」という強じんきわまる意図―を持ちながら、物事を壮大な知的構想をもった視点から整理していく能力がある>と見ています。
<人間的な皮膚感覚を大切にする>日本人は、欠点や例外を見つけると、気になって体系化を諦めてしまう傾向がある…と中西は言います。体系化するとき完璧を狙うと、全体の統一した姿が見えなくなります。欠点や例外を大きく見過ぎないことが重要なのです。
西尾も、日本人は<方法や理論、体系というものを、自分の中から紡ぎだし、それを中心に据えて世界を見ることが容易にできない。ここに大きな弱点がある>と指摘します。その結果、日本人は自画像が描けない…との評価は痛烈です。
3 業務を描く基礎的条件
自分達の業務のかたちを描くことは、組織の自画像を描く作業になります。自画像を描くには、西尾が言うように<自分を中心に世界を見ようとする意志>が必要です。皮膚感覚に基づいて、他者と自分達を対比させて特性を言う日本人論の類とは違います。
中西は日本人が、<周りの「業界」が気になって>とか、<「時代の要請」に過度に敏感>になりがちだと指摘します。いわば絵を描くときの、小さなところに目がいって説明的になりすぎる傾向に似ています。もっと本質を掴みとる必要があるのです。
自己中心ということに違和感をもつかもしれません。しかし対象に対して、<長期にわたってより深く理解するには、なんらかの意味で深い共感を持つ必要があります。必ず深く「好き」という感情がなければならない>…と中西は言います。
これは、<日本についても、本当に「日本が好き」という感慨と愛着なしに本当の客観性は持てない>ということです。愛着が持てる組織にすること、それにふさわしい業務にできたなら、自分達はこういう業務をやっています…と言えることでしょう。