■片貝孝夫の手法
1 片貝孝夫の仕事
片貝孝夫は、日本で最初にコールセンターを作った人のようです。グループウェアの開発も日本初なのでしょう。開発した「スーパー秘書・優子」は、ずいぶん広く使われたとのこと。そんなことを知らずに、あるとき偶然、私は後をついていくことになりました。
こういう大きなことを実現した人というのは、アバウトなところがあるようです。西堀栄三郎が『石橋を叩けば渡れない』で、大隈重信の、白瀬たち南極隊への激励について書いています。南極は南方で暑いだろうから、気をつけていくように…と言ったそうです。
西堀は、事をなす大物はこのくらいでないといけないと書いています。片貝のアバウトさは、大隈重信に負けないところがありました。正統派の方々を交えたおつき合いの中でも、素のままですから、近年あまり見かけない種類の人間であることは確かです。
2 片貝手法:サンタルチア方式
片貝手法はシンプルな2系統からなります。ただ、その内実を見せませんから、ほとんどの方が気づかないようでした。見事な情報統制と言いたいところですが、常識では思いもよらない手法だったため、気がついても真似できなかっただろうと思います。
ひとつは「サンタルチア方式」、もう一つは「こぎつねこんこん方式」でした。少なくとも、晩年はこれで事をなしていたはずです。大きなことをやろうとしますから、当然のことですが、成功確率は低くなります。そんなことを気にしてはいけません。
サンタルチア方式は、ひとまず「いいなあ」と思ったら、感動したそのままを反復していけばよい…というものです。「サンタルチーア」という一節を聞いて、「いいなあ」と思ったら、「サンタルチーア、サンタルチーア…」と歌い続けるという教えでした。
よく意味がわかりませんでしたが、ひとまず最後までやめずに、「サンタルチーア…」と歌い続けるのです。たしかに最後までいくと「サンタルチーア、サンタルチーア」と終わります。ほら、どうだ…という顔をされても、微妙な気分になりました。
3 片貝手法:こぎつねこんこん方式
片貝方式は柔軟ですから、単純にサンタルチア方式を続けようとすると、猛烈に嫌がります。なんで自分で考えないの…という態度になるのです。そのときは、「こぎつねこんこん」方式を使います。これもシンプルなものでした。
「こぎつねこんこん」の先がわからない場合です。何となく良さそうでも、行き先不明な場合、単純な反復ではうまくいかないことがあります。臨機応変の対応が求められます。どんな場合でも、はじめのところで立ち止まらないように気をつけなくてはいけません。
その先を知らなくても、「こぎつねこんこん、こんこんこん」と続ければよいということです。そのあとも「こんこんこん」と続けて、「こぎつねこんこん、こんこん…」と「こん」を増減させながら続けていくのです。うなずきながら、着地を考えていきます。
ああ、「こぎつねこんこん、風邪引いた」でいいですね…と言えば、ほら出来たという顔をすることになります。一般人がどう進んでよいかわからないとき、大物でも先が見えないことがあったようです。しかし、いつも平然と歌をうたい続けていました。合掌。