■メモの方法:発想の基礎

 

1 思いつきは消えてゆく

自分なりの考えを作り上げる場合、たった一つの思いつきではなくて、いくつかの思いつきが必要になります。ほとんどの思いつきは消えていきます。そういうものは消えるに任せてもかまわないと考える人と、記録しておくべきだという人がいます。

研究者やビジネス人の場合、記録しておく必要があります。感覚よりも論理を重んじる場合、少なくともいったん文字に変換させておくことが必要です。慣れれば、頭の中で文字に変換するなり、何らかの方法で貯蔵できるという人もいるようですが、例外でしょう。

ビジネス人の場合、メモを記録しておくことが重要になります。個人であれこれ考える時に、メモをどう残していったらよいのか、その人なりの工夫が必要でしょう。グループで行う場合、宿題方式は役に立ちます[アイデアの素材を出す方法]。

自分の能力を高めるには、思いつきをメモに記録しておくほうが有利です。いい思いつきなど、そんなにはありません。そうした思いつきを、頭の中で反芻させるのです。あえて文字に変換して記録することによって、自分の足場ができるように思います。

 

2 人脈構築のためにもメモが役立つ

すぐれた分析をつづける元外交官の宮家邦彦は『仕事の大事は5分で決まる』の中で、人脈は作れないと指摘しています。知名度の高い組織に属して、好き嫌いなく損得を考えずに人脈を構築すべし…などというノウハウを嫌います。なぜでしょうか。

<「人脈構築術」を機械的に実行するような輩を信用するでしょうか。私は絶対に信じません><人脈の本質はあくまで相手の「人間性と能力」に対する強い相互信頼感であり>、<まず磨くべきはあなた自身の能力です>…ということになります。

自分の能力を磨くために、宮家が重視しているのはメモです。<全ては、人の話を聞いたり、本を読んだりして浮かんだ小さなヒントを丹念にメモすることから始まったと思っています>。これらが集まって仮説となり、大局観のヒントが見えてくるということです。

 

3 文章でメモする

宮家は、自分なりの「メモ術」を確立すべきだと言います。<クリエイティブなアイディアは、ある日頭の中で突然生まれ、ふっと消えてしまいます>。だから、その場で記録して、あとで再現できることが大切です。それが出来たら、ほとんど問題はなくなります。

ここで大切なことは、メモの記述形式です。<メモ取りの最中は「キーワード」を書き下すだけで十分理解しているつもりになるのですが>、再現不能になることがあります。したがって、メモは文章の形式にしておくほうがよいのです。

<文章とは最低限、主語と述語がハッキリしている必要があります>、<メモ取りが終了したら直ちにメモを見直>して、<メモの中の「キーワード」の間に主語と述語を補完し、何とか文章として読めるようになるまで修正を加えていきます>。

 

4 メモを活字化して一覧する

私の場合、メモはたいてい一文ではなくて、3行以内の文章になります。そのくらいがひと息という感じがします。「ツイート」が140文字以内の短文になっているのは示唆的です。ある程度の長さでメモしておくと、そのときの思いつきが再現可能になります。

メモで大切なことは、(1)思いついたら記録できるように、紙と筆記具を持ち歩くこと、(2)メモをなくさないことでしょう。思いつくのが突然ですから、なくしやすいのです。一度書くと、再現しやすくなりますが、それでもなくさない工夫があるべきでしょう。

手間はかかりますが、手書きのメモをもう一度見直して、必要なものをPC入力しておくと便利です。活字になると客観視が容易になります。使えるものが、本当に少なくてがっかりするでしょう。それでも、印刷して一覧すると、新たな思いつきが得られます。