■組織の基準作りのために
1 組織と行動指針
会社にはカルチャーがあって、その会社ごとに社員の行動様式がちがってくるのは、多くの人が気づいていることと思います。それがビジネス文書まで影響していたとしても、おかしいどころか自然なことかもしれません。
たまたまその違いを目の当たりにして考え込みました。それで「価値判断をめぐって」を書きました。しかし、以前に書いたこととうまく結びついていなかったためか、イメージがわかないという感想をいただきました。
以前、ディズニーランドの行動指針をあげて、<多くの組織で、こうした見事な指針を持てずにいます>…と書きました(価値判断とビジョンについて2)。行動につながる価値基準が組織には必要だということを言いたかったのです。
2 基準作りの上手下手
何かあった時に、それを判断できる人が組織には必要です。組織の基準を明示しておけば、各人が業務にあわせて対応することができます。<考える際の判断基準が、ミッションになります>ということです(業務マニュアルとミッション)。
自分ルールに依存していたら組織はばらばらになります。詳細な規定まで事細かに決めることは現実的ではありませんから、行動につながる組織の基準があったほうがよいのです。その上手下手がありそうだということを感じています。
3.11のとき、東京ディズニーリゾートの対応は見事でした。安全を最優先するために、40分たらずの間に社長をトップとする「地震対策本部」が設置されています。来場者に見せることのなかった配線や基盤がむき出しのスタッフ用通路をすぐに開放しました。
3 行動を簡潔に記述する能力
アメリカで作られたディズニーランドの行動規準であるSCSE ― Safety(安全)、Courtesy(礼儀正しさ)、Show(ショー)、Efficiency(効率)― にそって、東京ディズニーリゾートは、社長からスタッフまで行動しています。
基準を明示しただけでなく、震度6、来場者10万人を想定した防災訓練を年間180日行っていました。ここまで徹底されていたということです。ディズニーは特別な存在、すばらしい例外なのでしょうか。そうかもしれません。それにしてもすごいことです。
これだけシンプルな基準を明示する能力を考えざるを得ません。中井久夫が『清陰星雨』に書いていたことを改めて思い出します。<米国人は作業を簡潔に文字化する「マニュアル」を作るのが上手である>…と。行動を簡潔に記述することがうまいのでしょう。
4 日本人のマニュアル作り
中井は同時に、日本人の<マニュアル作りのまずさ加減は有名>と書いています。中井自身はすばらしいマニュアルを作った人です(中井久夫の文書論)。その人から見ると、日本のマニュアルは、お話にならない水準にあったのでしょう。
ここでいうマニュアルとは操作マニュアルのことです。しかし現在、業務マニュアルの方に、より大きな問題があります。標準業務を記載する文書だった業務マニュアルを再定義する必要があります。組織のかたち、組織の指針を書く文書になっていくべきです。
詳細をこまごま書く文書ではなく、行動につながる基準をきちんと書いておく必要があります。この欠落が問題なのです。概念を明確にするための訓練が不十分なために、組織の価値基準を明示することができないのかもしれません。残念な事例に遭遇したのでした。