■価値判断とビジョンについて 1/2:業務の現状把握の意義
1 客観性と価値判断
何かを分析する時に、それに先立って価値が入り込まないようにという考えが、かつて主流を占めていました。その代表者はマックス・ウェーバーでした。この分野の主著となる『社会科学と社会政策にかかわる認識の「客観性」』を1904年に書いています。
ウェーバーは、<価値判断を外に向かって主張する企ては、当の価値への信仰を前提とする場合のみ、意味をもつ>と言います。価値判断を持ち込むことによって、客観性が損なわれると考えていたのです。もちろん、そんなことはありません。
しかし、今では信じられないことですが、大きな影響を与えました。<ヴェーバー以後の社会科学者にとって、価値や価値判断が危険なタブーになり、しばしば、それを避けることだけが関心事になっている>と清水幾太郎が『倫理学ノート』に記しています。
2 分析の前にビジョンが必要
社会科学を客観性のある学問にしようと思ったウェーバーが過剰反応したように思います。しかし、例えばデータ分析をする前に価値基準がなかったら、分析結果をどう評価したらよいのでしょうか。逆に価値基準がないと判断がぶれるおそれがあります。
ビジネスで何かをなすときに、どういう姿をよしとするか、それが見えていなくてはかえって困ったことになります。その姿を私達はビジョンと呼んでいます。ビジョンとはどういうものであるのか、それを早い時期に明確に言ったのがシュンペーターでした。
シュンペーターは『経済分析の歴史』の冒頭で書いています。<分析的努力に当然先行するものとして、分析的努力に原材料を提供する分析以前の認知活動がなければならない。本書においてはこの分析以前の認知活動をヴィジョン(Vision)と名づける>。
分析するためには、判断基準がなくてはなりません。どういう状態をよしとするのかを判断することになりますから、価値基準が入り込みます。価値から自由になるのではなくて、何を価値と考えるのかが分析以前に見えてなくてはいけないと言うことです。
3 ビジョンの前に現状把握を
「これをしたら、Aの状態がBの状態になった」ということを分析しようとする場合、Aの状態とBの状態を明確にする必要があります。その上で両者を比較して、Bがどういう価値を持つか考える必要があります。そのとき、価値基準が必要です。
ビジネスの場合、収益という数字は明確な基準になります。しかし、それだけではすみません。業務の仕組みが圧倒的に強いということが一番の基礎になります。ニーズを読むことに優れていて、そのニーズにあったものを提供する力が強いということです。
業務の仕組みを強化するには、まず現在の業務を把握することです。その過程で、より良い方法・仕組みが見出されることになります。Aの状態がどんなものであるのか、手探りで見出そうとするうちに、どういう状態がよい状態なのか、判断できるようになります。
ビジョンに先立って、現状を把握することが大切だろうと思います。価値判断はそのあとをついてきます。業務マニュアルを作りはじめると、ほぼ例外なく業務改革になるのは、業務の現状を把握するうちに、見えてくるものがあるためだろうと思います。